「一生を描ききる女性力を。」世の中に新しい価値を生み出すハブとして大学の価値を高める/武庫川女子大学 食物栄養科学部、建築学部、経営学部

武庫川女子大学キャンパス

POINT
  • 1939年公江喜市郎氏が創設した武庫川高等女学校を前身とする女子大学
  • 「平和的な国家・社会の形成者として、高い知性と善美な情操と高雅な徳性とを兼ね備えた有為な女性を育成すること」を立学の精神とする
  • 2019年段階で7学部14学科を展開し、日本最大級の女子大学
  • 2020年に3学部を増設して10学部17学科に拡大、入学定員は325名増加し2190名へ


武庫川女子大学(以下、武庫女)は2020年に食物栄養科学部、建築学部、経営学部の3学部の新増設改組を行った。その背景と設置趣旨について兵庫県西宮市のキャンパスを訪ね、お話をうかがった。

■女性が活躍できるフィールドを積極的に広げる意思決定
(瀬口和義学長)

  まず、現在武庫女が置かれている状況について、瀬口和義学長はこう話す。「学校法人武庫川学院は2019年に創立80周年を迎えました。そこで掲げたのは、100周年を迎える2039年に向けたビジョン『MUKOJO Vision 一生を描ききる女性力を。』(図1)。女性は男性に比べ、結婚、出産、キャリアチェンジ等、人生の変化が激しい。一生を通じて女性がもっと活躍できる世の中を創るために、我々女子大が果たす役割は大きいと考えています」。同時に3学部を開設する背景については、「人口減少期にあって生き残りをかけた方策」と断ずる。特に、「女性が活躍できそうな分野で、人材ニーズがあるところについては、教育を広げていきたい」と意気込む。既に存在するマーケットを奪いに行くだけでなく、世の中に新しい価値を生み出すハブとして、武庫女の価値を高めたいという。


図1 ビジョンメッセージ

図1 ビジョンメッセージ


 また、それとは別に、大学の無償化開始を受け、併設の短期大学部の募集が厳しくなることを見据えての方策でもあるようだ。金銭的な理由で短大部に進んでいた学生が大学を選べるようになると、当然短大部の経営が厳しくなる。そのため、短大部の収容定員約1500名を合わせた全体1万人規模の学生数を維持できるよう、学部新設や学科再編を進めてきたという。

 こうした改組の意思決定の主体は、毎週開かれる常任理事会だ。理事会主導のトップダウンで検討されるケースもあれば、各学科の問題意識から検討が始まるケースもあるという。最終的には学院長のリーダーシップにより改革が維持されていると瀬口学長は言う。

 改革を進める大学にとって、改革の継続性をどのように担保するのかは重要な問題だ。意欲的な改革も上層部が替わった途端途絶えてしまうケースは残念ながら少なくない。その点、武庫女は初代の公江学院長が基盤を築き、2代目の日下学院長時代は大学院や研究整備を行う発展期、3代目の大河原学院長が教育研究をさらに拡大充実させたという具合に、各時代の学院長が何を為したのかが明確に区分できる。中長期的な視点の大きな流れの中で、各施策がどう位置づけられるかを経営側が担保しながら、改革を推進しているという。

 次に、今回設置となった3学部について、各学部でお話をうかがった。

■栄養学という専門性を軸に食産業に貢献する女性を育成する
(食物栄養科学部 高橋享子学部長)

 栄養領域では2020年、食物栄養科学部を開設し、食物栄養学科と新設の食創造科学科の2学科体制となった。食創造科学科のコンセプトは、「食と栄養の専門知識を有し食産業にイノベーションを起こす人材を育成する」。では、食産業のイノベーションとは何か。高橋学部長が挙げたのは、①男性中心の食ビジネス業界において女性が活躍できること、②栄養学の専門性を持ちつつビジネスに貢献できる人材を育成すること の2点である。

 世界的な人口爆発と食糧難や環境保全、国内では少子高齢化に伴う消費者ニーズや家族の在り様の変化等を背景に、食に関わる産業ニーズは極めて高い。既存学科でも企業からメニュー開発や商品開発のオーダーを受けることが多かったことから、こうした状況を俯瞰しつつ手を動かせる人材を育成することの必要性が今回の改革につながった。

 新学科では1~2年次早期から食産業界を理解する目的で見学実習を実施し、生産現場の大変さや衛生管理の実態等の見聞を深めたうえで、3年次後期に1週間1企業×2カ所のインターンシップを実施する。見学実習と異なり実際に工場のラインに入って作業し、製造現場のリアリティを徹底的に叩き込む。同時に3年次で「マネジメント(販売・流通)」「イノベーション(食品研究・開発)」の2コースに分かれ、卒業後の進路イメージに合わせて専門性を磨く。まず多様な現場で学生に経験値を積ませ、自分なりの目的意識を醸成したうえで、それに即して専門性を深めるという順番だ。4年次では卒業研究として企業・教員・学生でプロジェクトを組み共同研究を行ったり、メニュー開発に取り組む等、実践型アウトプットにチャレンジする。後期に海外で実施される「グローバルフード研修プログラム」に任意参加する機会も設けられている。食産業にとって、栄養学という専門を有した人材は貴重だ。自分で考えたことをどう実現するか、プランニングも実践もできる人材を育成したいという。栄養学は概ね2年次までに修了し、3年次からは食品開発や食マネジメントの学修に進むイメージだ(図2カリキュラム参照)。

 その一方で、自身も管理栄養士である高橋学部長は、食物栄養学科における管理栄養課程の充実の必要性も訴える。主に健康な人向けの栄養指導や管理を行う栄養士とは異なり、病気や加齢等で食事の摂取が難しくなっている人も対象とするのが管理栄養士。栄養士は養成課程卒業と同時に免許を得るが、管理栄養士は国家資格である。職務内容からして当然病院等での勤務が多く、患者の栄養管理について医師とコミュニケーションをとる機会も多い。「本来は自らの専門性を背景に医師と対等に議論できなければいけない立場ですが、実際はそのレベルまでいかない管理栄養士も多い。いくら有資格者であっても、これでは厚生労働省が資格に定めている要件に及ばないのです」と高橋学部長は言う。「本学ではきちんとそのあたりも含め管理栄養を深く極められるようにしたい」。栄養学の専門性をもって食産業ビジネスを担う人材と、本来の使命を正しく全うする管理栄養士。その2タイプの人材育成を行うのが、食物栄養科学部というわけである。


図2 食創造科学科カリキュラム概観

図2 食創造学科カリキュラム概観


■充実した教育環境と豊富な実践活動で業界ニーズの高い女性建築家を育成する
(建築学部 岡﨑甚幸学部長、景観建築学科 杉浦徳利学科長、建築学科 柳沢和彦学科長)

 続いて建築領域では、建築学部を開設し、建築学科と新設の景観建築学科の2学科体制となった。栄養領域が女子大の十八番であるのに対して、2006年学科設置当時、女子大で建築学科は全国初であった。当然、今回の建築学部設置も全国初である。世界的には建築家の女性比率は5割を超えているが、日本はまだ3割程度で、多様性の観点でも育成ニーズが高いという。

 まず、建築学部の就学キャンパスである上甲子園キャンパスが圧巻だ。1930年に旧甲子園ホテルとして建てられ、現在は国の登録有形文化財でもある甲子園会館を学舎の一つとし、学部4年と大学院修士課程2年を合わせた欧米型の6年間一貫の建築教育を行っている。大学院生たちは企業と連携し、実践的なプロジェクトに挑戦している。

 その趣旨について、岡﨑学部長はこう話す。「欧米で建築家は医師・弁護士に並ぶ3大専門職の1つで、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)とUIA(国際建築家連合)が定める建築教育憲章では、建築の専門教育の目標を5年以上としています。本学は開設当初から6年間一貫教育を実施し、JABEEの認定基準に適合することにより、UNESCO-UIA建築教育憲章に対応しています」。

 学部生は、教科書でもある名建築の中で建築を学び、文化財の中にあるスタジオで1人1台の専用机とパソコンを利用できる。全授業時間の半分以上は少人数対話型の演習で、建築学科では毎月約1作品=年6作品のペースで自分のアウトプットを作り、課題ごとに全員が各自の作品を発表し、一人ずつ講評を受ける。この講評会には教員の他に設計事務所やゼネコン設計部の建築家達がいつも参加している。こうした実践重視の教育は新設の景観建築学科でも実施される予定だ。学生は知識のインプットと設計というアウトプットを何度も行き来しながら学ぶ。


写真:(左)上甲子園キャンパス甲子園会館内のスタジオ、(右)建築学科の学生の作品発表の様子

上甲子園キャンパス甲子園会館内のスタジオ、建築学科の学生の作品発表の様子


 新設の景観建築学科のコンセプトは、自然・建築・映像情報技術(動画やVR等)の3つを融合した教育で、建築≒建物から発想するのではなく、建築とその周辺の庭、広場、街路等の屋外空間を一体的にデザインできる設計者を育成することだ。欧米では建築学部の中に建築学科と屋外空間の設計を学ぶ造園学科があり、実践的なデザイン教育が行われるのが一般的だ。しかし日本では、明治期に造園が農学の中に、建築は工学の中に位置づけられてしまったことで、座学の色合いが濃くなるとともに、学問系統として分離してしまったという。こうした経緯を背景に、日本には建築と造園の両方に精通する設計者は非常に少ない。「地球環境問題に直面する現代社会には、自然との共生を配慮しながら、真に豊かで美しい住環境を創造できる設計者が必要なのです。本学科では建築や庭、都市のデザインは勿論、植物や防災等についても広く学びます」(杉浦学科長)。まさに世界水準の建築教育を実践する場なのである(図3参照)。


図3 建築学部カリキュラム概観

図3 建築学部カリキュラム概観


■自らの人生をデザインするセルフマネジメント力を育成する
(経営学部 経営学科 西道実学科長)

 最後にご紹介するのは、こちらも女子大で唯一となる経営学部である。設置準備室段階からの検討メンバーである西道実経営学科長は、そのコンセプトを「女性が働き方も含めた生き方を選び創ることができる、人生100年時代を生きるセルフマネジメント能力を身につけるための学部」と話す。ライフイベントが多くその影響を受けやすい女性が、受け身にならず自律的に自らの人生をデザインする力。まさに、瀬口学長の話にあったビジョン「一生を描ききる女性力を。」を体現するフラッグシップとも言える学部である。

 学びの大きな特徴は「1人ひとりの学びを創る」というスタンスだ。具体的には、3つのスタディーズと3つの実践科目である。まず3つのスタディーズとは、経営学・マーケティング・財務会計等、多様な学びでビジネスを学ぶ「ビジネス・デザイン」、アメリカ分校に留学し近隣のゴンザガ大学の教員から経営学3科目を英語で学ぶことを主軸とした「グローバル・マネジメント」、地方自治体や国内外のNPOと連携した演習をベースに社会課題の解決に取り組み、同時に公務員養成も行う「パブリック・マネジメント」という3つの科目群を指す(図4参照)。学生はこの3分野の科目群を興味関心に合わせて自由に組み合わせ、オリジナルのカリキュラムを組むことができる。


図4 経営学部 3つのスタディーズ概念図

図4 経営学部3つのスタディーズ概念図


 次に、3つの実践科目である。即ち、企業等へのインターンシップ、ボランティア等のサービスラーニング、調査やヒアリング等をもとに研究を行うフィールドワークの3つである。本来、学びは授業や演習に限らず、社会との交流からも学ぶことは多い。1人ひとりの学びを創るのであれば尚更だ。そうした考えから、各3単位ずつ配置、うち4単位を必修とする仕組みで3つの学外活動を課す。最低でも2つは履修しないと卒業できない算段である。履修可能な期間は1年次後期~3年次後期までで、これらは単位認定だけでなく、成績評価も行うという。学外での学びが多いため、履修計画や実績等は実践学習センターが蓄積し、教員が学生に伴走する形で学びを進める。

 新設の経営学部棟は「シェアードスタジオ」――即ち教職員や社会人等多様な人々と学生が交流できるよう、LAB(研究フロア)とPARK(演習フロア)を組み合わせ、より自然な交流が生まれやすいように設計されている(写真参照)。自分がどう生きたいかを軸に学ぶ内容を決め、学内外を問わず交流し、学ぶ場を模索する。大学側は学生が自分の人生をどう生きるかに自律的に向き合う環境や体制を整備して、見守る。強制ではなく学生自らが思考し、判断し、決定する仕組みがそこかしこに見られる学部である。


写真:シェアードスタジオのLAB(左)とPARK(右)

写真:シェアードスタジオのLABとPARK


■多様性を担いイノベーションを司る存在を育てる女子大学へ

 言うまでもなく、多様性はイノベーションの源泉である。画一的な集団からはイノベーションは起こりにくい。2019年3月に「列国議会同盟」が公表したレポートによると、世界の女性国会議員比率の平均は1995年11.3%、2019年1月には24.3%まで向上したが、日本は10.2%と低い水準で、調査193カ国の中でも165位と下位。不名誉なことに、女性活躍という文脈において、日本は世界的に見ても底辺レベルで、男性単一の属性が極めて強い社会と言える。そんな日本において今後大きな役割を担うであろう女性を特化して育てる女子大は、かつての良妻賢母育成からキャリアウーマン育成に変容しつつ、医療や保育教育等女性活躍が進んでいる業界の人材育成を得意分野としてきた。そんな中、武庫女は、「一生を描ききる女性力を。」のビジョンのもと、女性がまだ活躍できていない業界へ、人材ニーズを背景に踏み込む改革を行っている。性差から個人差へ、集団から個人へ。日本に足りない思考はまさにそれではないか。今後の武庫女の改革と3学部の教育展開に、引き続き注目したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/4/28)