大学ブランド力の理由[1] 中部から世界へ。創造型実学の大学としてのブランド創造/名城大学

名城大学キャンパス


800近い大学がある中、その大学ならではの独自性をいかに確立するか、 そしてどのように高校生をはじめとするステイクホルダーに伝えていくかは、大学の経営戦略における生命線ともいえるだろう。
本企画では、選ばれる大学としてのブランドを明確化するとともに、ブランド力向上のためのコミュニケーション戦略を磨き続ける大学を紹介する。


ビジョンの学内浸透こそがブランディング

 名城大学は、名古屋市に3つのキャンパスを持ち、法、経営、経済、理工、農、薬、都市情報、人間、外国の9学部、学生数約1万5000人を擁する総合大学である。小誌進学ブランド力調査で、東海エリアの志願したい大学5年連続1位の同大学に、そのブランド戦略はと聞くと、「学外への発信も大事だが、インターナルコミュニケーションとして、組織の志であるビジョンや理念が学内に浸透し、構成員が一貫してそれに基づいた行動をしているかどうかに尽きる」(総合企画部事務部長・鶴田弘樹氏)という答えが返ってきた。

 同大学は、国立大学で第1期中期計画が始まった2003年という早期から中長期的戦略プランが必要だと考え、2015年を目標とした戦略プラン「MS-15(MeijoStrategy-2015)」を2004年に策定、全学レベルで学内浸透に努めてきた歴史を持つ。

小原章裕 学長

 開学100周年となる2026年に向けた新ビジョン「MS-26」策定に際し、MS-15を検証。再度名城大学の強みを議論したところ、「多様性」がキーワードに上がってきた。MS-26の新ビジョンは「多様な経験を通して、学生が大きく羽ばたく『学びのコミュニティ』を創り広げる」。MS-15が黎明期ゆえの総花的だったという反省から、分かりやすいストーリーに絞って構成員が動きやすくすることで、さらなる学内浸透につなげる狙いだ。

 小原章裕学長は、「2019年に学長に就任し、MS-26をいかに実現するかを教職員一同の感覚として持ち続けるために、私はMS-26が達成できた時には本学は1ランク上の大学になっていると提案した」と語る。教職員全員が与えられた使命の中でPDCAサイクルを回してレベルアップし、様々な教育成果を可視化、学外へ発信することが、高校生や社会から見たブランドにつながるという信念からだ。「戦略の学内浸透には10年かかるというのが個人的な感想で、今ブランドとして評価頂けるところにきた」と鶴田氏は振り返る。

多様な学びを促進する「学びのコミュニティ創出支援事業」

 MS-26のビジョンの実現に向けて、①アクティブラーニング型学修の推進と②多様な専門性に根差したグローバル人材の養成を2本柱に、学生の多様な経験による主体的な学びを推進している。これは、多様な人と共に働く時代にイノベーションを生む環境を、大学の段階で作ろうという着想からだ。この象徴的な取り組みが2つある。1つ目は「学びのコミュニティ創出支援事業」だ。これはMS-26のビジョン実現に資する取り組みに対して、大学がスタートアップ費用を支援するもので、教職員と学生が一つになり、多様な経験を通じ、学びの機会を広げている。2つ目は「Enjoy Learningプロジェクト」。これは正課外で仲間と一緒に何か取り組みたいと思っている学生の希望に対し、大学が助成金を配付、活動を支援する事業である。

 2021年度時点で、学びのコミュニティ創出支援事業は91件、Enjoy Learning プロジェクトは8件が支援対象である。

 多様な経験による学びの場を提供しながら、名城大学を卒業して良かったと思われるための学生満足度を高める取り組みも行っている。卒業後4年を経過した卒業生に対して実施するアンケートにおいて、「大学での学びが自己の成長実感につながっている」とする回答は右肩上がりで、2020年度は82.3%に達している。

表 学びのコミュニティ創出支援事業/ Enjoy Learning プロジェクト(2021年度)の取り組み例

新学部と全学教育でデータサイエンスを強化

 学部改編も続いている。外国語学部を2016年に設置したのを皮切りに、2017年は都市情報学部と人間学部をキャンパス移転、2020年は理工学部環境創造学科の改組と続け、2022年にはデータサイエンスに特化した情報工学部を設置する。同時に都市情報学部も定員増した。

 さらに同じく2022年度に全学部対象の科目「データサイエンス・AI入門」を設置し、全ての学生がA・Iデータサイエンスが社会にもたらす価値や、デジタル技術が行きわたった社会における諸課題について俯瞰的な知識を身につけることを目指す。全学部横断の教員21名が参画し、データサイエンスとAI数理計算のフル・オンデマンド講義を展開する予定だ。

 今後について、開学100周年を迎える2026年はゴールではなく通過点で、もう次のビジョンが作ってあるという。新ビジョンは「中部から世界へ、創造型実学の名城大学」である。これまでの歩みを内包しつつ、立学の精神「実行力」をキーワードに次のブランディングを目指す。これまでも、こうしたキーワードを分かりやすく高校生に伝える工夫として、ウェブサイトにはできるだけ写真や動画を用いてビジュアル化し、“臨場感”のある発信を心がけてきた。「例えば、名城大学チャレンジ支援プログラムの学生が米国研修でGoogle本社を訪問した際の動画などは『世界』の臨場感が伝わるコンテンツ」と小原学長。100周年のその先のステージへ、同大学から目が離せない。


(文/能地泰代)


【印刷用記事】
大学ブランド力の理由[1]中部から世界へ。創造型実学の大学としてのブランド創造/名城大学