教育ジャーナリストに聞く  教えて!「リケジョ」

「リケジョ」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。レキジョ(歴女)の間違いではありません。理系女子、つまり理系学部に通う女子学生のことです。理系を勉強する女子高校生や、女性研究者に使われることもあるようです。専門の応援サイトも人気です。なぜ今、リケジョが注目されるのでしょうか。

 リケジョが注目されている背景には、まず、国を挙げて「男女共同参画社会」の実現に取り組んでいることがあります。とりわけ研究者の分野は、女性の進出が遅れている代表例です。日本の研究者に占める女性の割合は09年度、13.0%でした。米国(34.3%)やイタリア(33.3%)が3人に1人、フランス(27.7%)や英国(26.0%)が4人に1人を占めているのに対して、せいぜい7~8人に1人という数値です(文部科学省 科学技術・学術審議会)。

  科学技術立国と言われる割には、ずいぶん遅れていますよね。これを大幅に増やすには、研究者の数も多い科学技術系にテコ入れすることが不可欠なわけです。第3期科学技術基本計画(2006~10年度)では、自然科学系全体で女性の採用割合を25%にする目標を掲げていました。

 でも、研究者になる前に、理系学部を志望してくれなければ、話になりませんよね。

  10年度の大学志願者のうち、女子の割合は、理系全体で32.4%でした。ただしこれには、もともと女子が多かった保健・衛生学部や薬学部なども含まれています。特に少ないのが理工系で、理学部に限れば36.0%ですが、理工学部だと12.6%、工学部は11.8%にとどまっています(リクルート「2010大学入試実態調査」)。

   文系出身者にとっては、理工系というと、どうしても薄汚い白衣を着て、欠かさず講義に出席し、徹夜もいとわず実験に明け暮れる、3K(きつい、汚い、危険)のような偏見も拭えませんよね。かつ現実にトイレや更衣室など、必ずしも女子に配慮された学習環境ではない、とあっては、やはりイメージだけで敬遠されてしまうのでしょう。

 しかし、現実は大きく変わっています。大学の側では、むしろ積極的にリケジョを増やそうと努力しています。専用のロッカー室やシャワー室、仮眠室を設ける大学も少なくありません。何より、女子高校生に限った説明会を行う理工系大学が、年々増えています。

 なぜ大学側が、リケジョの獲得に力を入れているのでしょうか。

  大学入学年齢である18歳の人口が減少する中、ただでさえ学生数の確保に頭を痛める理工系学部は、大学の生き残りのためにも、まだまだ未開拓の分野である女子の進出に、大きな期待をかけているのです。

 先日、九州大学の数学科が「女性枠」を設けようとして、「男性差別だ」という反対意見も寄せられたため、撤回したという一件がありました(筆者ブログでも論評)。しかし同大学の場合、女性研究者を増やすという大学全体の方針の下、女子の入学者の割合を高めるという、明確な目的がありました。だいたい既に国立を含めた6大学で、女子に限った推薦枠を設けています。今後も女子をターゲットにした入試は、さまざまな形で増えてくることでしょう。

 入学後に優遇策を設ける大学もあります。やはり国立の電気通信大学は、今春入学生から給付奨学金付きの「女子学生PR隊」を発足させました(毎日新聞)。在学生を応援し、かつ受験生にもアピールする、一石二鳥の試みといっていいでしょう。

 このように国や大学が今、こぞってリケジョを増やそうとしているのです。このチャンスを生かさない手はありません。高校にとっては、女子生徒の将来の可能性を広げるだけでなく、進学実績も上げられる一手になるのではないでしょうか?

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2011.6.22) ※肩書等はすべて初出時のもの