教えて!デジタル人材、今後どう育成が求められる?

 次期学習指導要領を巡って、中学校の技術・家庭科から技術分野を分離させる可能性があるとの報道を目にしました。情報活用能力を強化するのが目的だということですが、そうなると高校の情報科がどうなるのか気になります。どんな議論が行われているのでしょうか。

 12日に開かれた中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)では、情報活用能力が議題となりました。昨年12月の改訂諮問でも、デジタル競争力が他国の後塵を拝していることから、人材育成を強化するために小・中・高校を通じた情報活用能力の抜本的向上策を求めていました。

 そこで着目したのが、定員割れ私大です。「定員充足率だけで教育の質を判断できるわけではない」と断りながらも、中には「義務・中等教育で学ぶような内容の授業が行われている大学」も見受けられると指摘。「社会で活躍できる優れた人材を育成できるよう、教育の質の確保・向上が必要」だとしました。
 しかし現状では、情報活用能力は系統的に指導されておらず「育成が十分とは言い難い」と、文部科学省事務局はみています。前回改訂(現行指導要領)では、高校に情報Ⅰ・Ⅱを設けただけでなく、小学校にプログラミングを体験させる機会を設けるようにしました。しかし▽小学校でコンピューターやネットワークの仕組みの理解が扱われておらず、中学校でも十分でない▽生成AI(人工知能)等の先端技術が明確に位置付けられていない▽中学校技術・家庭科の技術分野「情報の技術」と、高校情報科との体系が明確になっていない――などの課題が顕在化しているといいます。
 そもそも現行の小学校プログラミング教育は、改訂論議が大詰めを迎えていた2016年5月に官邸側の意向を受けて文科省が急きょ有識者会議を設け、1カ月ほどの議論で取りまとめを行って同年12月の答申に間に合わせた話です。中・高校との体系化が図られていないのも当然です。
 ただ、小学校で指導要領が全面実施となるタイミングで新型コロナウイルス禍に見舞われ、それを契機にGIGAスクール構想で一気に1人1台環境が整備されたという環境も無視できません。ましてや生成AIの急速な普及には、もはや学校教育でも対応が待ったなしの課題となっていることも確かです。
 もともと中学校では、4領域ある技術分野の1領域にとどまるだけでなく、教科の成績評価も家庭分野と合わせて行うという課題も抱えています。事務局は、他の3領域とも関連させながら実生活や実社会の課題解決に取り組むことで「大幅な拡充」を図るよう提案しましたが、それでも限界はあります。

 そこで事務局の後に発表した企特部会主査代理の堀田龍也・東京学芸大学教職大学院教授は一歩踏み込んで、情報活用能力を育成する中核として技術分野を「別教科」にすることを提言しました。堀田教授といえば長く文科省の諸会議体で教育の情報化論議をリードしてきた人ですから、単なる1委員の考えを披露しただけとは思えません。中学校でも情報を強化した教科の新設が有力な案として浮上したとみていいでしょう。
 そうなると高校の情報科も、中学校での学習を踏まえた高度化が図られることは間違いありません。事務局提案でも、高校段階で数理・データサイエンス・AI教育や社会人の動向を踏まえた検討を求めています。データサイエンスを必修にする大学も出始めていますから、生成AIも含めた情報活用能力の強化に今から備える必要がありそうです。
 また、情報技術自体が加速度的に進化していることから、事務局は指導要領解説の一部改訂をタイムリーに行うよう提案しています。解説の在り方自体にも、変化が迫られています。
 なお次回22日の企特部会では、情報活用能力との一体的な充実で「質の高い探究的な学びの実現」を議論することにしています。こちらの動向も、無視できません。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/