教えて!科目設定が柔軟にできるようになるの?
「次の学習指導要領では、高校の卒業要件が148単位になる」――そんな話を聞いて一瞬ビックリしたのですが、学校の裁量で柔軟な教育課程を組むために1単位を半期ごとに分割して2単位にするのだと聞いて安心しました。確かに今まで4単位や2単位が主な標準の科目を3年間のカリキュラムにはめ込んでも、生徒の実態に合った授業がしにくいと感じていました。どのような方向になるのでしょうか。

「柔軟な教育課程」は昨年12月の大臣諮問にもあり、改訂の検討を集中的に行っている中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)でも、小中高校を貫く目玉となっています。ただ、授業時数が標準となっている小中学校と違い、単位制を採る高校では一工夫が必要です。
そこで7月28日に開催された企特部会では、現行の卒業に必要な74単位を「148単位」に読み替えて学期ごとの単位認定を容易にするとともに、増単や減単もしやすくする方針を打ち出しました。これによって、例えば1年次で教え切れなかった必履修単位を2年次にまたがって展開することもできるようになります。
もっと重要なのは、必履修を含む科目の一部または全部を、同じ教科の他科目や学校設定科目で扱うことも可能にすることを打ち出した点です。文部科学省事務局は、例えば化学基礎と化学を一つの科目として複数年で履修するようにして減単もできるようにしたり、数学2の中で数学1の一部内容を一体的に取り扱ったりできるようにするとしています。
データサイエンスで探究を行う学校設定科目の中で、情報1の内容を扱うことも可能だといいます。現行では最大20単位とされている学校設定科目の上限単位数も、増やしたい考えです。
ただ、そうなると組み替えた科目で果たして元の内容が適切に取り扱われているか、あるいは歴史総合を日本史と世界史に分割するような不適当な扱いが出てこないかなど、心配もあります。英語の外部試験で高度な運用能力が明らかな生徒が在籍する場合などは必履修教科・科目の履修を免除することも可能にするといいますが、その場合の「一定の要件」をどうするかも課題です。
企特部会は、次回9月5日の会合から「論点整理」に向けた議論をスタートさせます。秋にも成案をまとめる直後に教科ワーキンググループ(WG)などを発足させたい考えで、高校の単位数の詳細も総則・評価特別部会の「高等学校検討チーム」で詳細を詰めることになりそうです。
なお7月の企特部会では、産業教育に共通する資質・能力を設定すること、高校入学者選抜で学力検査を行わない選抜や調査書を用いない選抜の取り扱いを整理することなども提言しています。特に高校入試では、中学校時代に不登校だった生徒をどう評価・選抜するかも大きな課題になっていますから、改善は待ったなしです。
ところで今年2月、高校授業料の実質無償化を拡大させることで自民・公明・維新の与野党3党が合意したことをきっかけに、高校教育の「質」が改めて問われています。各高校でも次期指導要領の下で、スクール・ミッション/ポリシーに基づいた柔軟なカリキュラム編成という形で、生徒の資質・能力を育成することが、これまで以上に求められることになるでしょう。現行指導要領下でも、各校でカリキュラム・マネジメント力を高めることが求められます。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/