教えて!国際調査から見る「働き方」の課題は?
経済協力開発機構(OECD)の調査で、また日本の小中学校教員の仕事時間が最長だったことが報じられました。長時間勤務がなかなか改善されないことに驚きはなく、むなしさが増すだけです。授業で人工知能(AI)を活用する割合が低いともありましたが、他にどんな調査項目があるのでしょうか。

国際教員指導環境調査(TALIS)は2008年以来、13年、18年、24年と、ほぼ5年ごとに行われています。日本は13年の中学校(コア調査)から参加しており、18年からは小学校にも参加しています。
勤務環境だけを調べているわけではありません。学校の学習環境にも焦点を当てており、国際比較を通して各国の教育に関する分析や教育政策の検討に資することを目指しています。「教育の質は、教員の質を超えられない」というのがシュライヒャー局長の持論であり、何より教員の質向上を図ることが教育政策のカギを握っているというわけです。
日本で仕事時間が長く、授業時間が短いことについても、アンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は13年調査の段階から、部活動指導も含めて生徒と向き合う時間が長いという利点を指摘していました。要は、教育政策で何を重視し、どこに何を目指して予算を投資すべきかが重要になります。
そう考えると、AI活用以上に心配な結果があります。学校で頻繁に行う指導実践として「批判的に考える必要がある課題を提示する」(小学校19.5%、中学校24.2%)、「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」(各23.0%、28.7%)、「知識が役立つことを示すため、日常生活等での問題を引き合いに出す」(各64.7%、64.4%)が、参加国平均より低かったのです。特に社会や日常生活との関連付けは、現行学習指導要領の改訂ポイントの一つだったはずです。文部科学省は、主体的・対話的で深い学び(主・対・深)や探究的な学習の視点から授業ができていると感じる教員が少ないことを問題視しています。
社会的評価を感じられないのも問題です。「児童生徒に高く評価されている」と回答した割合は小学校62.0%、中学校54.2%で平均より10ポイント以上、「保護者に高く評価されている」も各49.8%、45.0%と約20ポイント、いずれも国際平均より低くなっています。多忙な上に評価がこれでは、志気が上がるわけはありません。
多忙化の一因として近年「教員不足」の問題が指摘されています。TALISでも、校長で「教員の不足」を挙げたのは各40.7%、35.6%と平均より10ポイント以上高く、小学校では前回調査に比べ倍増しています。
現行指導要領は「学力」を「資質・能力」に拡張し、授業改善も求めたのが特徴です。コンテンツ(学習内容=何を知っているか)ベースからコンピテンシー(資質・能力=何ができるか)ベースに転換したとも言われ、そのために主・対・深(アクティブ・ラーニング=どのように学ぶか)にも言及したのです。
現在、中央教育審議会では指導要領の改訂を検討しており、先月末から各教科の議論が始まったところです。教育内容・目標を「中核的な概念」(知識・技能に関する統合的な理解、思考力・判断力・表現力等の総合的な発揮)で構造化した上で、指導要領の本文を表形式でも示す方針です。学校現場では、表を参照しながら授業計画を立てることが求められます。
いずれにしても次期指導要領では、現行以上に授業の質を上げることが求められそうです。今回のTALIS結果も、多忙化や教員不足の解消はもちろん、学習改善に備えるための条件整備に生かしてほしいものです。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/