教えて!『デジタル学習指導要領』って何?
学習指導要領の改訂を巡る報道が、一般紙でもちらほら見られるようになってきました。その中に、文科省が指導要領のデジタル化を検討しているという記事がありました。確かに紙のままでは読み込むのが大変ですし、PDFにしても使い勝手が悪い、というのが正直なところです。どのようなものになるのでしょうか。
「デジタル学習指導要領」は、12日に開催された中央教育審議会の「総則・評価特別部会」で文部科学省事務局がイメージとして示したものです。予算が認められれば開発に入り、次期指導要領の本体とは別途、教育現場に提供したい考えです。
現在でも指導要領は自分の担任教科・科目の部分を読むのが関の山で、後は必要に応じて総則を見るくらい、ましてや他教科を参照することなど皆無……というのが現状ではないでしょうか。学校現場で管理職を勤める委員の一人も、指導要領を活用するのは「研究授業か(指導主事の)計画訪問の時」だけで、年に5回あるかどうかだと実態を明かしていました。
現行指導要領は三つの柱で資質・能力を整理し、それらを一体で育成する授業が求められるようになりました。しかし、それぞれの関連性をどう図っていいか、いまだにピンとこないというのが本音ではないでしょうか。そもそも教科書に沿って授業をしていれば事足りる、という向きも依然あるでしょう。
そこで、次期改訂の方針を集中的に審議してきた「教育課程企画特別部会」(企特部会)は、9月25日にまとめた「論点整理」の中で「中核的な概念等を活用した一層の構造化・表形式化・デジタル化」を提言しました。「中核的な概念」とはビッグアイデアとも呼ばれるもので、学習内容の深い意味理解を促すものです。学習を通して中核的概念がつかめれば、内容を全部丸覚えする必要もなく、必要に応じて自在に使える知識になるという考え方です。
ただし総則部会では、学術用語に由来する中核的概念は現場になじまないとして「高次の資質・能力」に言い換えました。これによって資質・能力の深まりや広がりを示すだけでなく、内容に軽重を付けたり入れ替えたりすることも可能になります。それを示すのが「構造化」です。
法令に準じる指導要領は、引き続き文章の形で示す必要があります。しかし「表形式化・デジタル化」すれば、構造化された指導要領を視覚的にも理解しやすくなります。文科省は、指導要領の記載のスリム化と併せて「分かりやすく使いやすい指導要領」を目指したい考えです。
総則部会に示されたデジタル指導要領のイメージによると、トップページで教科と学年を選択し、キーワードを打ち込めば、該当部分がパッと出てきます。クリック一つで指導要領解説も参照できるだけでなく、他校種や他教科と並べることも可能にします。公共性の高い関連サイトにリンクしたり、逆に教科書の二次元バーコードからデジタル指導要領の該当部分をすぐ見られるようにしたりすることも検討します。
さらに表示部分をダウンロードできるようにし、自由にカスタマイズできる「マイ指導要領」も目指します。コピペして指導案を作成することも簡単になりそうです。
見逃してはならないのは、次期指導要領の下では学校現場の自律性・創造性発揮が期待されていることです。デジタル化によって参照部分が多くなりすぎ、かえって多忙化してしまう……などということは避けなければなりません。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/
