教えて!『主体性』評価の見直しで大学入試はどうなる?

 5日の新聞報道で「『主体性』の比重小さく」という見出しに、一瞬ドキリとしました。大学入試の話かと勘違いしたらからですが、よく読むと学習評価の観点の話でした。確かに「主体的に学習に取り組む態度」の評価・評定には、負担を感じていたところです。しかし大学入試も「学力の3要素」をすべて評価して多面的・総合的に入学者を選抜するというのが高大接続改革の建前ですから、影響がないとも言い切れません。どう考えればいいのでしょうか。

 学習指導要領の改訂を検討している中央教育審議会の教育課程企画特別部会(企特部会)は4日の会合で、学習評価を議題の一つとしました。文部科学省事務局は、主体的に学習に取り組む態度の評価を見直す方向を提案しました。

 現行指導要領では、資質・能力の三つの柱の一つである「学びに向かう力・人間性等」について、感性・思いやりなど評価・評定になじまないものは個人内評価にとどめ、それらを除いた主体的に学習に取り組む態度のみを「粘り強さ」「自己調整」の2軸で評価し、評定を付けることになっています。
 しかし特に小中学校などでは、挙手の回数を数えたり、振り返りを毎時間行わせたりするなどによる「評価疲れ」も起こっています。粘り強さ・自己調整も、元々は評定を付けるために示した側面のはずですが、学びに向かう力・人間性等自体が粘り強さ・自己調整で構成されるとの誤解まで生んでいる、と文科省はみています。

 事務局案では、学びに向かう力・人間性等について①初発の思考や行動を起こす力・好奇心②学びの主体的な調整③他者との対話や協働④学びを方向付ける人間性――の各要素で構成されるものと再整理。これらがスパイラル状に絡み合って向上していく、というイメージを描きました。
 その上で評価に関しては、目標準拠評価(絶対評価)を、すべて個人内評価に改めます。もう主体的に学習に取り組む態度に評定を付ける必要はなくなるわけです。ただし①②③が「特に表出した場合」には、思考・判断・表現の評価に〇を付記することにしました。学校現場にとっては、評価・評定の負担が減ることになります。

 一方、大学入試を巡っては、今も学力の3要素をそれぞれ適切に評価することになっています。ただし主体的に学習に取り組む態度は、高大接続用に「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」と言い換えています。
 もともと入試の研究者には、ペーパーテストにも主体性等が反映するという見方がありました。そういう点でも今回の見直しは、大学関係者にも歓迎されるでしょう。思考・判断・表現の評価に〇が付いた場合に「加点」するような扱いについては企特部会の委員からも懸念が出されていましたから、入学者選抜でも簡便な扱いが進むと予想されます。

 ところで現在、大学入試では一般選抜による入学者が半数を割り、総合型選抜や学校推薦型選抜の比重が年々増しています。実質的な大学全入時代も相まって、もはやテストの点数や偏差値で生徒の勉強する意欲をかき立てることが難しくなっていることは、高校現場で日々実感していることでしょう。
 そうした中、大学進学後も学習意欲を継続させるためにも、主体的に学習に取り組む態度の形成的評価が、ますます重要になります。今回の改善案は、評価しなくていいということではなく、本来の学習評価に立ち返るものだと捉えるべきではないでしょうか。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。近刊に『学習指導要領「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社)。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/