教育ジャーナリストに聞く  教えて!「デジタル読解力」

「デジタル読解力、日本は4位」――。(OECD生徒の学習到達度調査)こんなニュースが先ごろ、少しだけ話題になりました。参加が19カ国と少なかっただけに、世間からも「4位じゃダメなんです」とは叩かれなかったようですが、そもそもデジタル読解力って何でしょう。

 「もう○○力だの、○○教育だのって言葉は、聞きたくないっ!!」とお思いの先生も多いことでしょう。でも、安心してください。デジタル読解力は、今までのペーパー読解力(正式には「プリント読解力」)と基本的には同じものです。
……こう言っても、あんまり安心してもらえないかもしれませんが。

 よく知られているように、経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施する「生徒の学習到達度調査」(PISA)では「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」という3分野が毎回出題されているのですが、各回ではそのうち1分野を「中心分野」として重点的に調査しています。OECDは将来的にPISA自体を、現在の筆記型から、コンピュータ使用型の調査に移行する予定なのだといいます。PISA2009では読解力が中心分野だったために、国際オプションとしてデジタル読解力調査を実施し、希望する国に参加を募った、というわけです。ということは「デジタル数学的リテラシー」「デジタル科学的リテラシー」もあり得たのかもしれませんが、話がややこしくなるので置いておきましょう。

 そもそもPISAでいう読解力とは、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考し、これに取り組む能力」と定義されています。この「書かれたテキスト」には、文章はもとより、書き言葉が含まれた図形や写真、地図、表、グラフ、コマ割りマンガまで含まれています。社会にあふれる情報から必要なものを的確に取り出して解釈することが読解力のキモですから、手書き、印刷、デジタルといった形態も問わないわけです。日本でPISAを担当する国立教育政策研究所(国研)も、「デジタル読解力は、読解力の一部」と明言しています。

 OECDは第1回のPISA2000の時から、デジタルテキストを視野に入れていたといいます。しかし当時はウィンドウズ98ブームの冷めやらぬ中、ようやくウィンドウズ2000に切り替わろうとしていた時代。時期尚早だとして見送られました。その後の急速なデジタル社会の到来はご存じの通りで、今やビジネスの世界でもパソコンを駆使して情報を扱うことが当たり前になっているのですから、社会に出て通用する力を測ろうとするPISAとしては、デジタル読解力の出題は自然な流れと言えるでしょう。

 しかし「読解」のプロセスは同じだといっても、国研が解説しているように、デジタルテキストの読解には「新たな力点や戦略」が必要になります。スクロールやリンクといった技術を身につけていることはもとより、複数のサイトを比較して、情報の出所や信頼性なども、プリントされたテキスト以上に注意深く吟味しなければなりません。

 ただ、日本の中・高校生にとっては情報機器というと、諸外国と違って携帯電話が主流になっているのが心配です。デジタル読解力の育成には、やはり学校の授業などでパソコンなどの端末を活用することが不可欠で、それには先生方も情報通信機器(ICT)を駆使して授業を行うことが求められます。文部科学省の調査によるとICTを活用して授業ができる高校の先生は64%ということですが、そもそも新しい学習指導要領では教科横断的な読解力の育成とともに、各教科の指導にも「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段」の活用が盛り込まれているのですから、準備万端、抜かりはないですよね――ああ、やっぱり嫌がられる話になってしまいました。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2011.8.22) ※肩書等はすべて初出時のもの