教育ジャーナリストに聞く  教えて!「日本の大学の実力」

教育ジャーナリストに聞く  教えて!「日本の大学の実力」

東京大学は30位、京都大学は52位(英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション=THE)――。こんな世界大学ランキングが、いくつかの機関から毎年発表されています。高校の先生方は「ふーん、そんなもんか」程度に思われるかもしれません。しかし実は今、こうしたランキングに大学業界は右往左往しています。それも一部の上位大学の問題にとどまらず、事によると高校教育さえ左右しかねないというのですから大変です。

 「グローバル化」という言葉は、今や日常語になりました。教育の世界でも、文部科学省が「グローバル人材の育成」を重要課題の一つにしているほか、世間をにぎわせている「大阪維新の会」の教育基本条例案にさえ「加速する昨今のグローバル社会に十分に対応できる人材育成を実現する教育」(前文)がうたわれているほどです。そして、グローバル競争の最前線に立たされているのが、言うまでもなく国内トップクラスの大学です。

 いま世界の大学では、優秀な研究者や学生の獲得競争が過熱化しています。その背景には、国境を越えた大学間の移動や単位互換がしやすくなっていることがあります。欧州では20年ほど前から「エラスムス計画」(現在は「エラスムス・ムンドゥス」)が進んでおり、その向こうを張って東アジア地域でも日・中・韓3カ国を中心に、大学間交流を進めようという動きがあります。

 さて、先のTHEランキングを見てみましょう。前年まで8年連続トップだったハーバード大学がカリフォルニア工科大学に1位を譲った、というのが世界的なニュースでした。歴史的に有名な大学も、うかうかしていられません。東大は26位から順位を下げたものの、香港大学が21位から34位に後退したため、アジア勢トップになりました。しかし、順位を下げたとはいえシンガポール国立大学が40位(前年34位)、北京大学が49位(同37位)につけていますから、京大も含め、今後とも激しいしのぎ合いが予想されます。なお、100位台には東京工業大学・大阪大学・東北大学の3大学、200位台には名古屋大学・首都大学東京・九州大学・筑波大学・北海道大学・東京医科歯科大学の6大学、300位台には慶應義塾大学・広島大学・神戸大学・東京農工大学・早稲田大学の5大学が入っています。

 ところで、国内のみならずアジア勢トップの東大ですが、6つの評価軸による総合スコアは74.3(ハーバード大は93.9)は、「学習環境」が86.1、論文の「引用数」でも69.1だったのに対して、「国際性」になると23.0にとどまっており、これがランキング伸び悩みの大きな要因になっています。国際性の低さは日本の上位大学に共通する悩みであり、だからこそ各大学が「グローバル化」にやっきになっているのです。

 そうした中でもう一つ、見逃せない点があります。海外から研究者や学生を引きつけるには、国際的にも卓越している、ということを客観的に証明しなければなりません。それが今、中央教育審議会で論議になっている「大学教育の質の保証・向上」です。大学全入時代を迎える中、これまでのように「入りにくく、出やすい大学」を続けていても、海外からは相手にされません。学生にはちゃんと勉強させて、卒業時は有意な「グローバル人材」として世界に送り出していますよ、とアピールできるようにする必要があります。そのため中教審では、大学のタイプ分け(機能別分化)を促進したり、学部(学士課程教育)横断的なカリキュラムを編成したりすることも検討されています。いずれも大学教育の在り方を大きく変える話です。

 そして最近、大学における質の保証のためには、高校でも質の保証をしてもらわないと困る、という論議が、中教審内で出始めています。高校授業料無償化を契機に中教審内に設置される「高校教育部会」でも、テーマの一つとして浮上しそうな気配です。そうなると高校にとっても、無縁どころの話ではありませんね。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2011.10.26) ※肩書等はすべて初出時のもの