教育ジャーナリストに聞く  教えて!「日本の高校の変貌」

教育ジャーナリストに聞く  教えて!「日本の高校の変貌」

文部科学省はこのほど、2011年度の「高等学校教育の改革に関する推進状況」をまとめました。日本の高校は、どのように変わってきているのでしょうか。

 高校は言うまでもなく義務教育ではありませんが、今や進学率が98%に達しています。入試を通しているとはいえ、1つの学校でも生徒の実態が年々多様化していることは、先生方も実感しているところでしょう。
 そうした生徒の多様化に対応するため、この20年ほどの間、多様な高校づくりが進められてきたことも、ご存じの通りです。どのように変わってきたのか、調査を見ていきましょう。

 まず、中高一貫教育校です。1999年度から制度化され、当初は4校だけした。それが年々、着実に増えてきており、2011年度は前年度比18校増の420校(国立5校、公立179校、私立236校)になりました。政府が設置目標として掲げていた全国500校も見えてくる数字です。

 ただし内訳を見ると、中学校と高校の「併設型」が15校増の288校となったのに対して、6年一貫のカリキュラムで教育を行う新しい学校種である「中等教育学校」は1校増の49校、既存の都道府県立高校などと市町村立中学校の「連携型」は2校増の83校と、それほど増えていません。中等教育学校は指導体制を一から作り上げなければならないこと、連携型は各学校の設置者が違うことや校舎が物理的に離れていることなどの課題があって、簡単には進まない事情があるようです。逆に併設型は、都道府県や学校法人が特色づくりの目玉として新設し、施設設備や教員配置などにも力を入れるケースが多くあります。このような傾向は、今後も続いていくものとみられます。実際、12年度以降の設置予定25校の内訳を見ても、中等教育学校3校(うち公立2校)、併設型19校(同8校)、連携型3校(同3校)となっています。

 一方、総合学科は94年度から制度化され、最初は7校で始まりました。それが今や、351校にまで増えました。とはいえ、前年度に比べれば2校増。2年前と比べても7校増ですから、中高一貫に比べて、伸びが鈍っているのが気になります。総合学科も「全国でおおむね500校」という政府目標があったのですが、こちらは残念ながらこのままのペースだとしばらく届きそうにありません。それでも総合学科は多様な開設科目や系列が特色ですから、校数よりも中身にバラエティーがあると言っていいかもしれません。

 多様化する生徒への対応ということでは、単位制高校の方が高校改革の老舗といっていいでしょう。1988年度に定時制・通信制課程に限定して始まり、93年度からは全日制課程にも拡大されました。2011年度は前年度比21校増の952校(国立2校、公立791校、私立159校)。この中には、先の総合学科(原則として単位制を採用)のほとんどが含まれています。なお私立の中には、「民間参入」によって学校設置会社が設立した、いわゆる株式会社立学校が20校あり、そのほとんどが広域通信制高校です。

 こうした高校の中には、「キャリア教育」を学校の特色として打ち出しているところが少なくありません。実際、都道府県などに尋ねても、高校教育で重点的に取り組んでいる課題として「キャリア教育」を挙げたのは39県に上っており、「基礎的・基本的な学力の定着」の35県、「再編・統合」の30県を上回っています。キャリア教育は専門学科や総合学科だけでなく、最近では進学校も含めた普通科でも実施が課題となっていますから、今後もますます取り組みは増えていくことでしょう。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2011.11.24) ※肩書等はすべて初出時のもの