教えて!「中教審の高校教育部会とは?」

文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)に11月、「高等学校教育部会」が設置され、既に2回の論議が行われています。何が話し合われるのでしょうか。

 今回の検討は、民主党政権によって導入された高校授業料無償化をきっかけに始まりました。高校の進学率は98%に達し、「準義務教育機関」などと呼ばれることもありますが、言うまでもなく正式には義務教育ではありません。一方、授業料無償化は「全ての意志ある高校生等が、安心して勉学に打ち込める社会をつくるため」だと説明されています。改めて高校の位置付けが問い直されているのです。

 そこで文部科学省は2010年秋以降、高校教育のあり方に関するヒアリング(7回)、都道府県教育委員からの意見聴取(41都道府県の計115人)、職員によるインタビュー(47都道府県の有識者・行政・校長・教員等152人)などを行い、広く課題の洗い出しを行ってきました。そして今年9月の中教審初等中等教育分科会で、部会の設置が決定。
 22人の委員には、高校関係者として荒瀬克己・京都市立堀川高校長、及川良一・東京都立三田高校長、小林薫・東京都立北豊島工業高校長、長塚篤夫・私立順天中学校・高校長(東京)、渡邉洋一・埼玉県立大宮中央高校長、眞砂和典・関西学院千里国際中等部・高等部校長(大阪)、和田孫博・私立灘中学校・灘高校長(兵庫)のほか、相川順子・全国高等学校PTA連合会会長が入っています。部会長には、小川正人・放送大学教授が選ばれました。

 部会では当面、

〔1〕個々の生徒の学習進度・理解等に応じた学びのシステムの構築(生徒一人一人の能力・適性等や卒業後の進路に対応した高校教育の在り方をどうすべきか/高校教育での生徒の学力をどのように保証するか)

〔2〕社会の要請に応える人材養成機関としての機能の充実(生徒の優れた才能や個性をどのように伸ばすべきか/グローバル人材をどのように育成すべきか=英語教育の充実、国際バカロレア教育の導入等/生徒の情報活用能力の育成をどのように図るか/高等学校におけるキャリア教育をどのように充実すべきか/専門学科等における職業教育をどのように充実すべきか)

〔3〕個々の人格形成の場としての機能の再構築(生徒のコミュニケーション能力や規範意識、社会参画の態度等をどのように育んでいくべきか/不登校や安易な中途退学者を出さないためにどのような方策が考えられるか)

〔4〕科学・技術の進展や産業界との連携等による教育方法の刷新(高校教育において、情報通信技術をどのように活用するか/地域や産業界等との連携をどのように図るか)――を検討。

11年度中には取り上げるべき方向性を固め、12年度中に具体的な課題を詰めていきたいとしています。

 中教審が高校の課題を真正面から取り上げるのは、総合的な新学科(後の総合学科)の創設など新しいタイプの高校の奨励や、普通高校での職業教育の充実、教育上の例外措置(後の飛び入学)、進路指導の改善などを打ち出した1991年の答申(新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について)以来、実に20年ぶりだといいます。
 第1回の会合では、中教審で高校の新学習指導要領の改訂方針を検討した部会の主査を務めていた安彦忠彦早稲田大学教授が、そこでは「高校教育全体に関する議論ができなかった」と振り返っていました。

 第2回会合では主に「普通」(中位レベル)の高校生に関する学力保証の問題が論議され、進学や就職との関連や、授業の在り方、社会に出てからも続く意欲の育成など、さまざまな角度から意見が交わされました。

 第3回会合は年の瀬も押し迫った12月27日に行われます。今後の成り行きが注目されます。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2011.12.13) ※肩書等はすべて初出時のもの