教えて!「大学入試は今後?」

入試シーズンたけなわです。しかし先の大学入試センター試験では、問題冊子の配布ミスなどトラブルが続出しました。「大学全入時代」が本格化する中、これからも日本の大学入試はこのまま続くのでしょうか。

 現在のセンター試験は、共通第1次学力試験(1979~89年)を前身として90年に始まりました。今回で23回を数えます。国公立大学のみを対象とする共通一次を衣替えして、私大も含めた各大学が教科などを自由に選択して利用できるようにしました。今春の利用大学は674校で、このうち私立が513校と4分の3を占めています。

 共通一次が導入された背景には、大学進学率が急増する中で、受験競争の激化や、高校学習指導要領から逸脱した難問・奇問の出題が続出したことがありました。しかし偏差値輪切りの進路指導が広がるなどの弊害も目立ったことから、私大も含めて入試方法の多様化や選抜尺度の多元化を促すセンター試験に衣替えして、現在に至っています。英語のリスニングテストも2006年から導入され、7回を数えました。

 しかし、大学の数が増加する一方で18歳人口は減少の一途をたどっており、えり好みさえしなければどこかの大学には入れる「大学全入時代」が実質的に到来しています。推薦入試やAO入試も、本来は受験生の意欲や入学後に伸びる可能性を評価するための試験方法だったはずですが、実際には「学力不問入試」になっている大学がある、との批判も目立つようになりました。

 ところで文部科学省の中央教育審議会から4年前、「高大接続テスト(仮称)」を創設するという提案があったことを覚えているでしょうか。全入時代に学生の学力を担保するため、各大学の個別学力検査やセンター試験などとは別に新しい学力検査を行って、入試だけでなく高校、大学がそれぞれの教育の充実に生かせるようにしよう、というアイデアでした。

 その後どうなったかというと、文科省の委託により北海道大学で高校・大学の関係者らを集めて検討が行われ、10年9月に報告書がまとめられました。現在はそれを受けて、大学入試センターで検討を行うことにしています。同年4月にセンター内に設けられた「入学者選抜研究機構」でも、「新テスト開発」を研究テーマの一つにしています。

 こうした国内の動きの一方で、大学教育と大学入学をめぐる国際的な動向も大きく変わりつつあります。

 同機構が昨年11月に開催した国際シンポジウムは、「教育テストの可能性―21世紀型能力の育成と高大接続」と銘打ったものでした。今後の「高大接続」には「21世紀型能力」を問うことが求められるだろう、という問題意識がそこに込められています。実際、日本の共通一次のモデルにもなった米国の代表的な統一テストであるACT(American College Testing)では大学との共同で、問題解決能力や批判的思考力などを測定する新テストを開発しようとしています。韓国の「大学修学能力試験」でも従来の英語テストと別に、話す・書く能力を重視したテストを新設するといいます。

 先ごろ東京大学の懇談会が秋入学の導入を提言したのも、グローバル人材の育成に対応するためでした。大学教育の国際化に合わせて、入試の在り方も変化が迫られることでしょう。今後の成り行きが注目されます。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。

 ※東大秋入学についての渡辺氏の最新社説はこちら
http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-5151.html


(初出日:2012.1.25) ※肩書等はすべて初出時のもの