教えて!「進学費用」

社団法人全国高等学校PTA連合会とリクルートの合同調査で、いま高校生の保護者にとって一番の関心事が「進学費用」であることが分かりました。教育費をめぐる状況は、いったいどうなっているのでしょうか。

 合同調査では前回(2009年)、保護者にとって進路検討で重要だと思う情報のトップは「入試制度」でしたが、今回(11年)は42.7%と10.0ポイント減少。替わってトップに立ったのが「進学費用(学費・生活費など)」で、3.2ポイント増の52.3%と半数を超えました(第5回高校生と保護者の進路に関する意識調査2011ニュースリリース)。

 では、実際に進学費用はどのぐらいかかるのでしょう。独立行政法人日本学生支援機構の「学生生活調査」2011(2年に1度実施)の10年度結果によると、授業料や生活費などを合わせた学生生活費の平均は、大学(昼間学部)で年間約183万円。前回調査より3万円近く減ったとはいえ、これだけの金額です。国立の自宅生でさえ108万余り、自宅外生でも約171万円となっています。私立の自宅外生では、236万円余りにもなります。

 単年度でみても結構な額ですが、卒業まで4年間通うことを考えると大変です。。日本政策金融公庫が毎年、同公庫の「国の教育ローン」を利用している世帯を対象にしている調査(今回は11年2~3月実施)によると、高校入学から大学卒業までに必要な費用は実に約1042万円。大学4年間だけ取っても約707万円です。受験費用や、合格しても入学しなかった学校に対する納付金も含めた入学年の費用は97万5千円で、国立でさえ84万6千円、私立では103万5千円になります。進学時の当座の費用としても、これだけかかるのです。

 私が大学に入学した年、ちょうど国立大学の授業料が上がって約25万円になったと記憶しています。90年代には毎年のように授業料と入学金が交互に引き上げられるようになり、現在(標準額)は53万5800円。独立行政法人になって各大学で増減ができるようになっているものの、保護者世代と比べてほぼ倍増していると言っていいでしょう。国立大学でさえ、このような状況です。

 長引く不況の中で世帯主の給料は上がらず、子育て家族の家計は大変です。先の日本政策金融公庫調査によると、年収に占める在学費用の割合は平均で37.7%とほぼ3分の1ですが、年収200万円以上400万円未満の低所得層では57.5%を占めています。これは、ある意味で教育ローンを「借りられる」世帯の話ですから、先々の返済を恐れて進学自体をあきらめてしまっている家庭もあるのではないかと心配になります。

 日本学生支援機構の調査でも、奨学金を受給している者の割合が前回調査比7.4ポイント増の50.7%になりました。今や大学生の2人に1人が、奨学金に頼らなければならない時代になっているのです。

 経済協力開発機構(OECD)の統計で、教育支出に占める家計など私費負担の割合を見ると、日本は33.6%です。韓国(40.4%)ほどではないにせよ、OECD加盟国平均(16.5%)を大きく上回っています。EU加盟国平均(10.9%)とは比べようもありません。もともと日本は、家庭の教育費負担が重い国なのです。

 政府も12年度予算案で、奨学金の貸与人数を増やすとともに、年間300万円未満の低所得世帯に対して卒業後一定の収入を得るまで返済を猶予する「出世払い奨学金」(所得連動返済型の無利子奨学金制度=仮称)を創設するとしています。今後も一層の拡充策が求められます。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2012.2.21) ※肩書等はすべて初出時のもの