教えて!「企業と大学の国際人育成」

 先月の本欄では、「若者の内向き志向」を取り上げました。しかし、グローバル化への対応が待ったなしの状況にある中、関係者は手をこまぬいているわけではありません。先ごろ「産学協働人財育成円卓会議」が、アクションプラン(実行計画)をまとめました。どういうものでしょうか。

 同会議は昨年7月、文部科学省と経済産業省の共同提案により、東日本大震災後の「元気な日本」復興・復活に向けた人材養成のため、具体的な行動を起こすために発足しました。メンバーには「産」として世界に名だたる企業20社のトップら、「学」として旧7帝大に筑波・一橋・東京工業、そして早稲田・慶應を加えた12大学の学長をそろえるという、まさに産学のリーダーを結集しての会議です。この間、実務レベルでの勉強会も開催しながら、「オールジャパン」の視点で人材養成の好循環サイクルを構築するための検討を行ってきました。なお会議名には「人財」という言葉を使っていますが、資源の少ない日本では人こそが財(たから)だ、という意気込みが伝わってきます。

 さて肝心のアクションプランですが、まず、新しい日本社会をけん引する人材像として、「世界を舞台に活躍できるタフネスとグローバルな視点を併せ持ち、我が国の『新たな価値』を創造できる人材育成」が決定的に重要だとしています。背景には、これまでのような「内向き志向」や「出る杭は打たれる」といった閉鎖的・硬直的な社会風土では、高度経済成長期までは通用しても、知識集約型経済への転換が求められる環境下では逆に阻害要因になっている、との危機感があります。

 そして、そのような人材を育てるために、大学には▽タフな学生の育成▽主体的に考える力・課題発見能力等の養成▽リベラルアーツ教育の充実、企業には▽採用の早期化・長期化の是正▽求める人材像の明確化と発信▽学生の学びの適切な評価・活用――などを求めています。両者がこうした取り組みを行うことで、大学教育の質が向上し、産業界とも効果的な接続が図れるというわけです。

 また、グローバルな視点でイノベーション(技術革新)を創出するためには、海外留学の促進や、博士レベルの人材活用も不可欠です。そのためには、留学が不利にならないような夏・秋採用や通年採用の拡充と、大学が幅広い知識や俯瞰(ふかん)力、行動力などを備えた博士を育成して企業が積極的に採用することが重要だとしています。

 具体的には、「世界を舞台に活躍できるグローバル人材のための教育を充実・強化します」「グローバル化に対応した大学の教育環境整備に取り組みます」など「7つのアクション」を示しています。今後、詳しい「アクションリスト」に基づいて、各企業や大学が着手できるものからスピーディーに実行していき、関係者で共有するとともに、広く社会に情報発信していきたいとしています。

 アクションプランに添付された事例に見られる通り、採用内定者を対象に、入社前の海外留学を支援するトヨタ自動車の「短期海外留学プログラム」や、オクスフォード大学など世界トップクラスの大学への1年間留学が可能な一橋大学の奨学金制度など、そうした取り組みは既に始まっています。ということは、そうした先進的な取り組みを行う企業や大学を目指す高校生にも「タフネスとグローバルな視点」を持つための“基礎体力”をつけることが不可欠になりますし、海外留学や、場合によっては博士課程まで学び続ける意欲も求められます。ただ大学入試にパスできる学力をつけさえすれば後は何とかなる、という時代では、既になくなっているのです。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2012.5.23) ※肩書等はすべて初出時のもの