教えて!「中教審に高大接続の新部会」
平野博文・文部科学相は8月28日、中央教育審議会に対して「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」を諮問しました。これを受けて中教審は「高大接続特別部会」の設置を決めました。どういうことでしょうか。
文科省が大学教育や大学入試の改革方針を相次いで打ち出してきたことは、これまで2回(6月・7月)にわたって紹介したところです。とりわけ大学教育の改革については、同日の中教審総会で「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」と題して平野文科相に答申されたところです。そして今回の諮問では、高校教育の質保証、大学入学者選抜の改善、大学教育の質的転換を「一体としてとらえ」て改革することを求めています。
これが今までの教育改革と、どう違うのでしょうか。これまでは大学教育改革も高校教育改革も、そして大学入試改革も、別個の課題として取り組まれてきました。しかし、これらを「一体改革」することで「質的転換」しなければならない、というのです。小手先だけの改革にはとどまりそうもありません。
安西祐一郎・大学分科会長は大学教育の質的転換に関連して、「これからの成熟社会で必要なのは、思考力などの汎用的能力、チームワーク、知識等々を社会の発展に活用する倫理観だ。そのためには読書をしたり、考えたり、友人とさまざまな体験を共有して議論し文章をつくる、質の高い主体的な知的体験が必要だ」と強調しました。大学教育は今後、こうした方向で変わっていくことになります。それに対応して、大学入試も変わっていかざるを得ません。「大学改革実行プラン」で示された大胆な提言が、決して絵空事ではなくなるのです。
一方、中教審では高校教育部会が論点を整理し、本格的な審議を既に始めています。今後は特別部会と連動する形で、高校教育の在り方の論議がいっそう加速されることになりそうです。
「大学入試が変わらなければ、高校は変わらない」とは、よく言われることです。しかし現実に大学入試が変わる可能性が高くなってきたのですから、高校も安穏としていられません。今までのように大学入試「対策」に力を入れているだけでは、社会が求める汎用的能力の育成に力を入れようとする大学の要請に応えられなくなる、といっても過言ではありません。思考力や活用能力を重視した新学習指導要領が来年度入学生から本格実施となりますが、新指導要領に対応した授業に本気で取り組まなければならないでしょう。
ところで今回、一体改革のテーマとして「高大接続」が前面に掲げられたことに、改めて注意する必要があります。高大接続については1998年にも諮問され、99年の答申を受けて各地で高大接続の取り組みが広がったことは、ご存じの通りです。しかし実際には、生徒の意欲を喚起するための単発的な事業にとどまっていたのが実際のところでしょう。それはそれで進路指導上、大きな意義があったことも事実です。しかし一体改革の中で求められるのは「教育接続」です。高校教育と大学教育を連続したものとして捉え、相互が補完する形で社会に有意な人材を育てることが求められます。入学者選抜はそのプロセスに過ぎない――と言っては言いすぎでしょうか。3月の記事で解説したように、大学で伸びる力、社会で通用する力の基礎を育成することが、高校教育の課題として現実のものになってきているのです。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
(初出日:2012.8.29) ※肩書等はすべて初出時のもの