教えて!「大学進学は頭打ち?」

 大学・短大進学率が2年連続で減少したことが、文部科学省の2012年度学校基本調査で分かりました。1991年度以来ずっと伸びてきた四年制大学進学率も、22年ぶりの減少です。2人に1人が大学生となる時代になって、大学進学はいよいよ頭打ちなのでしょうか。

 大学と短大を合わせた進学率(浪人を含む)は、50%を目前に控えた01~02年度にも2年連続で48.6%(00年度比0.5ポイント減)と頭打ち傾向を見せたことがありました。その後は10年度まで上昇を続け56.8%にまで達しましたが、11年度は前年度比0.1ポイント減の56.7%、12年度は同0.5ポイント減の56.2%と、09年度の水準に戻りました。

 これとは逆に、高卒就職率はリーマンショック(08年9月)のあおりで10年度に15.7%まで落ち込んだ後は、2年連続で上昇し12年度は16.8%(前年度比0.3ポイント増)となっています。もともと90年代の進学率上昇は、高卒求人の急速な冷え込みがきっかけだったとも言われています。高卒で就職したくてもできないから進学して大卒就職に賭けよう、という層も少なからずあったようですから、高卒就職状況が好転すれば大学進学が落ち込むのも道理かもしれません。

 専門学校への現役進学率は前年度比0.6ポイント増の16.8%で、3年連続の上昇です。大学生の厳しい就職状況が報道されるなどして、実学志向が高まったことも、大学進学率が減少した要因に挙げられそうです。

 大卒就職率も10年度に60.8%に落ち込んだ後は2年連続で上昇し、63.9%となったことは前回紹介した通りです。しかしリーマンショックの年の69.9%には6.0ポイント及ばないばかりか、幾つも内定が取れる学生と一つも取れない学生の二極分化も生じています。就職できても非正規雇用だったり、就職も進学もしていない無業者が依然15%を占めたりしていることも紹介しました。大学生の厳しい就職状況についてのニュースを見聞きした高校生が「大学に行っても……」と考えるのは自然なことかもしれません。

 進路選択はどうしても目先のデータに左右されてしまうものですが、例えば大学進学なら4年後の景気はどうなっているか、確証が持てないはずです。3年連続で大卒就職率が上昇していた06年度の大学入学生で、自分の卒業時に60.8%にまで落ち込むと想像していた人がどれだけいたでしょうか。

 何より忘れてはならないのは、進学して何を学び、何を身に付けるかです。日本では「大学の数が多過ぎる」という声も一部にありますが、先進諸国でも高等教育進学率は伸びています。経済協力開発機構(OECD)も日本に対して、経済的利益をもたらすためにも大学型高等教育を勧めているほどです。

 その大学の教育も、これから大きく変わっていくことが予想されます。8月の記事で少し触れましたが、中教審は大学教育の「質的転換」を求めた答申で、学士課程教育(学部教育)全体を通して、社会が求める汎用的能力を育成するよう求めています。大学は、もはや浮世離れした学問を教えていれば社会が卒業生を評価してくれる時代ではなく、社会から評価される能力を身に付けさせるよう具体的にカリキュラムや教育方法を工夫しなければ、存続自体が危うくなるといっても過言ではありません。

 高校でも、生涯を通じたキャリア発達をも視野に入れた進路指導が求められるところでしょう。進学か就職かの選択は、あくまでその過程の一つです。いま一度「出口指導」に陥っていないか、検証することも必要ではないでしょうか。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2012.10.16) ※肩書等はすべて初出時のもの