教えて!「大学卒業後の進路」

 学校基本調査の結果(速報)が2012年8月27日に発表されました。今や四年制大学には2人に1人が進学するまでになり、各高校でも進学対策に力を入れているところですが、大学生の就職難もいろいろ報道されています。今春の大学卒業生はどうなったのでしょうか。

 大学(学部)卒の状況を見てみると、近年の大学(学部)の就職率(各年5月1日現在)は2003年度の55.1%を底として年々上昇、し08年度には69.9%まで回復しましたが、同年9月の「リーマンショック」により状況は一転。10年度は60.8%にまで落ち込みましたが、その後は2年連続の増加で12年度は63.9%(前年度比2.3ポイント増)となっています。進学率は13.8%(同1.2ポイント減)です。

 一方、いわゆる無業者(進学も就職もしていない者)は10年度の16.1%から2年連続で減少し、15.1%に当たる約8万6638人(同1369人減)となりました。

 ひと頃は就職難にもかかわらず大企業志向が強まり、就職浪人や就職留年の問題が浮上しました。しかし就職率の好転の背景には、企業の採用意欲が回復しつつあることだけでなく、学生が中小企業にも目を向けるようになったこともあるようです。

 ただ、依然として9万人近い無業者がいる状況は楽観視できません。さらに、細かく見ていくと心配な状況はまだまだあります。

 非正規雇用の形態が広がったことを受けて、文科省は今年度の調査から「就職者」を「正規の職員・従業員、自営業主等」と「正規の職員でない者(雇用契約が一年以上かつフルタイム勤務相当の者)に分け、状況をより詳しく把握することました。すると、非正規職員が3.9%に当たる2万1990人だったことが分かりました。無業者と非正規職員、それに「一時的な仕事に就いた者」(3.5%に当たる1万9596人)を合わせると22.9%に当たる12万8224人が「安定的な雇用に就いていない者」(文科省)となり、依然深刻な数字と言えます。

 それだけではありません。今年度の調査では、無業者についても詳しい状況を調べることにしたのですが、内訳は「進学準備中の者」4.2%、「就職準備中の者」57.1%、「その他」42.8%となっており、無業者の約4割に当たる3万3584人が先々の準備をしていない「ニート」状態にあることが分かったのです。

 もちろん就職状況は景気動向に左右されるため必ずしも本人の責任とは言えませんが、そうは言っても卒業後はどうにかして生計を立てなければなりません。大学には11年度以降、キャリア教育の実施が義務付けられています。学生へのキャリア支援の充実を望みたいものです。

 しかし近年、採用活動の早期化により3年生から就職活動に入らざるを得ず、学業がおろそかになるばかりか、職業意識も十分に育めず、それがミスマッチに拍車を掛けるという悪循環に陥っているとの指摘もあります。

 中央教育審議会は8月28日の答申で大学に対して、学生が主体的に問題を発見・解決する「アクティブ・ラーニング(能動的学習)」を積極的に取り入れるなどして社会が求める汎用的能力を学士課程教育(学部教育)全体で育成するよう求めるとともに、企業に対しては、学生が大学での十分な学修時間を確保するためにも実質的な採用活動の開始を卒業前年度の3月からとするなど、早期化・長期化の是正を求めました。

 答申ではまた、初等中等教育から高等教育にかけて、社会で必要とされる能力を各段階で育む必要性を訴えています。大学に生徒を送り出す高校側としても、入試をパスできる力だけでなく、大学に入ってから伸びる力や、社会で活躍できる基礎を培うことを視野に入れた教育が今後いっそう求められるでしょう。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。


(初出日:2012.9.4) ※肩書等はすべて初出時のもの