教えて!「教員免許の行方」

 中央教育審議会は8月の答申で、教員免許状を修士レベル化するよう提言しました。いったい、なぜ免許のレベルアップが必要なのでしょう。そして、今後の見通しはどうなるのでしょうか。現在の先生方の免許更新は……。

 中教審の答申「教職生活全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」は、そのタイトル通り、養成・採用・研修という教員のライフサイクル全体を通じて、資質能力を向上させることを主眼にしています。免許制度の改革もその一部であり、かつ、その原動力である、と位置付けることができます。

 なぜレベルアップが必要なのかというと、社会が求める人材育成が高度化し、学校でも知識・技能だけでなく思考力・判断力・表現力や人間関係形成力などを育成することが求められていることに加え、いじめ・不登校への対応や、特別支援教育・ICT(情報通信技術)教育といった課題の必要性なども浮上しているからです。

 そうした課題に対応するには学部4年間の教職課程ではとても学び切れませんし、今後も新たな課題が次々と出てくることでしょう。そこで答申は「学び続ける教員像」の確立を打ち出し、社会の急速な進展にあっても知識・技能を刷新し続ける、探究力を持った存在になってほしい、と考えたわけです。

 新しい免許制度としては、「一般免許状」「専門免許状」「基礎免許状」(いずれも仮称)の創設を提案しています。このうち一般免許状は現在の一種免許状に代えて、修士レベル(学部4年プラス修士1~2年)での学修を経て取得できる標準的な免許ですが、これで完結するわけではありません。在職しながら特定分野の実践を積み重ねた上で、その高い専門性を身に付けたことを証明する「専門免許状」を出そう、というわけです。専門免許状の分野は各教科の他、学校経営、生徒指導、進路指導、特別支援教育、外国人児童生徒指導、情報教育などが想定されています。また、学部卒レベルの免許として基礎免許状を残しますが、その後の大学院での学修などにより一般免許状の取得を目指すものとしています。いずれも、上級免許の取得を通して「学び続ける」ことを促そう、というのが制度設計のねらいです。

 ただし、現状では教職大学院は全国で25校にすぎません。これを教員の需要数に合わせて拡充することも急務ですが、国や教育委員会の研修、さらには校内研修や近隣の学校との合同研修会なども、大学との連携で一定の要件を満たせば、専門免許状の取得単位の一部として認められるようにすることも打ち出しています。日常的な職務や研修を通した学びを上級免許の取得につなげることで、さらに学び続ける意欲を持ってもらおう、というわけです。

 ただ、教職大学院の整備にしても、単位取得に耐え得る研修講座の充実にしても、時間がかかることは事実です。この方針を打ち出した当時の鈴木寛・文部科学副大臣は「10年後の姿」と語っていました。教員免許更新制も「詳細な制度設計の際に検討を行う」(答申)といいますから、やはり少なくとも10年間は続くかもしれません。ただ、更新講習で学んだことは新免許の単位として認定される可能性もあり、無駄にはならないかもしれません。

 更新講習も、選択18時間に関しては自分の課題に合った講座が選べるため、おおむね好評だと聞きます。新しい養成・採用・研修制度も、意欲と能力にあふれた人を教職に招き入れ、教職に就いた後も元気の出るような制度にしてほしいものです。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2012.10.16) ※肩書等はすべて初出時のもの