教えて!「学校週6日制の復活」

 下村博文文部科学相は、公立学校でも学校週6日制を復活させる方針を表明しています。ベテランの先生なら覚えているでしょうが、あれだけ慎重かつ大騒ぎをして導入した学校週5日制を、そう簡単に元に戻せるのでしょうか。

 「土曜授業」の実現は昨年12月の総選挙の際、自民党が総合政策集「J-ファイル」の中で掲げていました。「世界トップレベルの学力と規範意識」を育成するためには、授業時間数の確保が必要であるとの考えからです。

 土曜授業をめぐっては、第1次安倍晋三内閣の時に設置された「教育再生会議」の第2次報告(2007年6月)でも「教育委員会、学校の裁量で、必要に応じ、土曜日に授業(発展学習、補充学習、総合的な学習の時間等)を行えるようにする」と提言され、当時の伊吹文明文科相が省内で検討したことがありました。こうした経緯も踏まえて下村文科相は1月15日の記者会見で、先月の記事で紹介した通り、改めて議論するまでもなく省内で法令などを整理した上で6日制にできる、という考えを明らかにしたわけです。

 とはいえ多くの高校では、既に補習授業や代替授業などの形で実質的に土曜授業の道が開かれていることでしょう。さらに10年1月、東京都教育委員会が通知で、「開かれた学校づくり」のため公開授業などを行う場合は月2回を上限として土曜日に授業をしても5日制の趣旨には反しない、という考えを示して以来、都内の公立学校で土曜授業を実施する学校が広がっているほか、福岡県教委など大都市圏を中心に、東京都の方針に追従する教委が続いています。教員の勤務に関しては、多くの教委が直近の長期休業期間中に代休を取れるよう条例等を整備しています。

 13年度から土曜授業の実施を認める横浜市教委のアンケート調査(11年7月実施)をみると、保護者の7割が賛成する一方、教員は逆に7割が反対するという結果が出ています。ただし土曜授業を実施した方がよいと考える教員のうち8割が「平日の負担を減らせるから」と答えています。2002年度に完全学校週5日制へと移行した際、「平日が忙しくなった。(1995~2001年度の)月2回休業の時がちょうどよかった」と漏らす教員の声を数多く聞きましたから、実際に復活してみれば、保護者だけでなく教員側にも案外スムーズに受け入れられるかもしれません。

 ところで、世間には5日制を「ゆとり教育」の象徴と捉えて、6日制の復活を「脱ゆとり教育」の一環だと受け止める向きもあるようです。まさか学校関係者でいまだにそんな単純な捉え方をしている人はいないだろう、と信じたいところですが、改めてなぜ5日制・土曜授業が必要になっているのかを、東京都教委の「土曜日における授業の実施に係る留意点について」で確認しておきましょう。そこでは、新指導要領の全面実施で平日の週時程が過密化を余儀なくされていることなどを理由に挙げ、「このまま放置しておくことはできず、早急に解決しなければならない課題」だと指摘しています。つまり、思考力・判断力・表現力等の育成も含めた授業時間の確保を含めて新指導要領のねらいを達成するために、土曜授業を行うべきだとしているのです。

 もし6日制に戻ったとしても、増えた分の授業時数のほとんどを大学受験対策に充ててしまっては何にもなりません。総合的な学習の時間やキャリア教育など、新指導要領の趣旨の実現とともに生徒が将来、社会で活躍できる力を育むための授業改善のために活用することが望まれるでしょう。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.2.19) ※肩書等はすべて初出時のもの