教えて!「海外は日本の教育をどう見ている?」

 「世界トップレベルの学力を目指す」――第2次安倍内閣は、こんな方針を掲げて「教育再生」の実行に取り組むとしています。では今、その世界から日本の教育はどんな目で見られているのでしょうか。国内の見方とは、ちょっと違うようです。

 「日本の教育から学ぶものは、もうありません」――。シンガポールの教育関係者から、国際会議などでしばしば聞かれる言葉です。2009年の「生徒の学習到達度調査」(PISA)では初参加ながら読解力で5位、数学的リテラシーで2位、科学的リテラシーで4位となり、日本の各8位、9位、5位を上回りました。しかし、単に順位が上だからではありません。シンガポールから見ればICT(情報通信技術)教育をはじめ、取り組んでいる内容や方法がすっかり時代遅れと映っているようです。シンガポールでは初等教育の段階から能力主義が徹底されているだけでなく、2004年にリー・シェンロン首相が提起した「教えを少なく、学びを多く」に象徴されるように、既存教科の内容を削減する一方で、創造力や思考力、応用力、探究心、問題解決能力の育成に力を入れているといいます。

 お隣の韓国はどうでしょう。ある意味で常に日本の教育を横目で見ながら、その教訓を生かして先へ先へと行こうとしている印象がありますが、実際にもPISA2009では各2位、4位、6位と日本より上か同等です。何より注目されるのは、国際オプションとして19カ国・地域が参加した「デジタル読解力調査」で群を抜いて1位となったことで(日本は4位)、とりわけ最高水準レベルの生徒の割合が参加国中最多の19.2%(同5.7%)、最下位水準が最少の1.8%(同6.7%)と、上位層の引き上げと下位層の底上げの両方に成功していることです。さらに2011年には「スマート教育推進戦略」を打ち出して、15年度までに高校まで全国でICT教育を全面実施するべく、デジタル教科書などの整備を強力に進めています。

 日本でも「学力世界一」として注目されてきたフィンランドも、世界的な通信機器企業ノキアに代表されるICT先進国であり、基礎教育の段階からeラーニングやメディアリテラシー教育が普及しているといいます。何より原則として修士課程を修了した高度専門職である教員が、少人数指導や個別指導、児童・生徒同士の学び合いによる調べ学習などを通して「一人も落ちこぼれをつくらない」教育が推進されています。

 対して日本の教育は、昨年末に発表された「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS)の2011年調査結果で小学校の得点が上昇したことで世間は「学力低下に歯止めがかかった」「脱ゆとり効果だ」などと浮かれていましたが、一方で「勉強は楽しい」「勉強が好きだ」「数学、理科を使う職業につきたい」と考える中学生の割合は、国際平均を大きく下回っています。知識・理解の成績が向上しても「社会で生きて働く力」につながらなければ、何にもなりません。

 内向きな国内の議論とは裏腹に、経済協力開発機構(OECD)は「日本はあまり予算を掛けないにもかかわらず高い教育効果を上げており、問題解決能力など『未来志向の教育』にも果敢に取り組んでいる」と高く評価しています。世界と日本の教育をよく知るOECD教育局のアンドレアス・シュライヒャー次長(事務総長教育顧問)が日本に対して、知識の量より21世紀に必要とされるスキル(技能)の育成に力を入れるべきこと、そのためにも高度専門職としての教員の資質能力向上や処遇改善が必要だと繰り返し強調していることに、耳を傾けるべきでしょう。

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.3.19) ※肩書等はすべて初出時のもの