教えて!「東大・京大の入試改革」

 東京大学と京都大学が、2016年度から推薦やAOなどを取り入れる入試改革を相次いで発表しました。国立大学では既に82校中76校が推薦入学を、47校がAO入試を導入していますから、「ようやく東大・京大もか」という一方で、「東大までもが追従するのはけしからん」というOBも少なくないようです。しかし実は改革の裏には、もっと深い思惑があるというのです。どういうことでしょうか。

 東京大学の「推薦入試」は、これまで後期日程に充てていた100人を振り替えて、書類と面接、大学入試センター試験の総合判定によって、前期日程が始まる前に合格者を発表しようというものです。指定校推薦ではありませんし、浪人も含めて各校1~2人と推薦枠は狭いけれども、受験チャンスが2回あることに変わりはないとも考えられます。ところが、出願資格は「特定の学問分野に対する強い関心」を持つ者とされ、入学後は大学院の授業も受けられるようにするといいます。実際にはペーパーテストよりも相当ハードルが上がることになりそうです。

 一方、京大の「特色入試」は、[1]高校が作成する調査書・学業活動報告書(仮称)・在学中の活動歴と、志願者が作成する「まなびの設計書」に基づく書類審査[2]面接や筆記検査(センター試験の成績を含む)、口頭試問――によって総合評価をするもので、[2]の組み合わせ方によって「学力AO入試型」「後期日程型」「推薦入試型」があります。

 これらが単なる「入試方法の改善」ではないことは、発表の経緯が象徴しています。京大が「新機軸入試」(高大接続型京大方式特色入試)の導入方針を表明したのは、12年6月。その年の1月、東大が秋入学への移行方針を打ち出したことに対して「入試改革を優先すべきだ」との姿勢を明らかにしたものでした。一方、東大はその秋入学に関して同年10月、4月から「フレッシュプログラム」を実施して「ギャップターム」との選択制とし、第1学期を9月から始める、という折衷案を公表。今年1月になって濱田純一総長も秋入学への全面移行を事実上断念することを表明し、それを受ける形で入試改革が発表されました。つまり秋入学の是非と入試改善の必要性は、動機が共通しているのです。

 東大・京大といえば、国内では多くの受験生がうらやむトップクラスの大学です。しかし世界的に権威のある「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」誌(英国)の2012-13年の大学ランキングで東大は27位、京大は54位にすぎません。先ごろ初めて発表されたTHEのアジア大学ランキングではトップ100のうち日本が22校を占め、もちろん東大が1位でしたが、2位のシンガポール国立大学とは僅差。同誌電子版は「日本がアジア王者だが、ライバルはそう遠くない」と指摘しています。

 いま世界トップクラスの大学では、研究面のみならず教育面でも優秀な人材の獲得競争が過熱しています。東大のランキングが低いのも、留学生数や外国人教員数、英語による授業など、国際化指標が極端に低いためです。教員や学生が優秀であることはもとより、外国人も含めて「ダイバーシティー(多様性)」を持たなければ国際競争に打ち勝つだけの活力を生み出せない、という危機感が大学関係者に広がっています。中央教育審議会が昨年8月の答申で学士課程教育(学部教育)の「質的転換」を打ち出したのも、“国際標準”に耐え得る教育を行わなければグローバル化時代に対応できない、という危機意識によるものです。

 これからの大学教育は、トップクラスの大学を中心に大きく変わっていきます。それに伴って大学入試も、大胆な改革が避けられません。単なる「試験対策」で進学実績を上げようとしても太刀打ちできなくなるかもしれませんし、何よりペーパーテストをパスできたとしても、大きく変わる大学教育についていけるとは限りません。高校側にも、高大接続の観点からの「教育力」がいっそう問われることになるでしょう。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.4.16) ※肩書等はすべて初出時のもの