教えて!「大学のガバナンス改革って何?」
中央教育審議会がこのほど「組織運営部会」を発足させ、「大学のガバナンスの在り方」の検討を始めた――。こう聞いて、ピンとくる高校関係者はどれほどいるでしょう。実は、これから大学に進学しようとする人にとっても大きな影響を及ぼすというのです。いったい何が起ころうとしているのでしょうか。
「コーポレートガバナンス」(企業統治)なら聞いたことがあるけど、学問の府である大学で「統治」なんて尋常じゃないな……と思われる向きがあるかもしれません。しかし実は大学関係者にとっては去年から、大学改革上のホットな課題となっているものです。それも、大学自身が自主的に進めるべき改革としてのことです。
大学分科会での配布資料(今年4月4日)によると、大学のガバナンスとは「学長のリーダーシップの確立や学内組織の運営・連携体制の整備等」のことであり、それが「大学改革を推進するため」に必要だとされています。
その後も、教育再生実行会議が第3次提言(5月28日)で「学校教育法等の法令改正の検討や学内規定の見直しも含め、抜本的なガバナンス改革を行う」と明記。6月14日に閣議決定された「骨太方針」「日本再興戦略」「第2期教育振興基本計画」のいずれも大学のガバナンス改革の必要性に言及しており、今や政府全体の課題になったと言えるでしょう。大学の教育・研究機能を強化することが、今後の日本の成長に不可欠だという強い認識があるからです。
こう説明しても、まだ「大学業界内の話ではないか」と思う人も少なくないでしょう。しかし、昨年8月の中教審「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(いわゆる「質的転換答申」)では「プログラムとしての学士課程教育」を定着させるためにも、今後、ガバナンスのあり方を審議する必要があると指摘していました。要するに、学部のカリキュラムを抜本的に改編するためにも、学内体制の見直しが急務だというのです。
日本の大学といえば、伝統的に学部・学科を単位として教育と研究が一体化されてきたのが一般的な姿です。今も多くの大学では、カリキュラムは教授会の専権事項のように扱われています。しかし大衆化した大学には、専門知識を教えるというより、それぞれの学問分野を通して学生に、どんな職業に就いても役立つ「汎用的能力」を身に付けさせることが期待されています。「学士力」「社会人基礎力」などと呼ばれてきたものです。
第2期振興計画では、「どんな環境にあっても答えのない問題に最善解を導くことができる「課題探求能力」を養う」、としています。学部・学科を超えてそうした能力を共通に育成しようというのですから、全学的なカリキュラム改革の視点が欠かせません。「アクティブ・ラーニング(能動的学修)」と呼ばれる、演習やフィールドワークを採り入れた授業方法の改善も必須になります。いつまでも教授会中心・学問第一のままでは社会の要請に応えられず、大学は生き残れない――という危機感が、そこにはあります。
カリキュラムも授業方法も大きく変わるのですから、そこで学ぶ学生にも主体的な学習姿勢がこれまで以上に求められることになります。少なくとも座学に真面目に出席して単位を積み上げ、卒業要件に達すれば社会から評価される、という時代は、すっかり過去のものになろうとしているのです。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/
(初出日:2013.7.16) ※肩書等はすべて初出時のもの