教えて!「文系・理系の進路選択時期」

 文系・理系のコース制を採っている高校の方が生徒の教科・科目に対する好感度や重視度は高いけれども、早めのコース選択は教科・科目や進路への意識を高めることにつながっていない――。こんな調査結果を先ごろ、国立教育政策研究所がまとめました。いったい、どういうことでしょう。

 調査は「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」。PISA(経済協力開発機構=OECD=の「生徒の学習到達度調査」)などの国際調査結果から、日本の中・高校生が理系の職業について十分情報がないまま進路をしていることが浮き彫りになったため、実態を把握しようと2011年9月、東日本大震災の被災3県を除く44都道府県の学校を抽出して実施したものです。

 それによると、高校の3校に2校が文理などのコース分けを実施。1年生の10~12月に選択させ、2年生の4月から実際にコースに分かれる、というのが一般的でした。

 コース分けをしている高校の方が確かに生徒の意識が高かったのですが、分析の結果、2年生の4月から選択させる高校よりも、3年生の4月から選択させる高校の方が、教科・科目の好感度や重視度が高くなる傾向が表れたとしています。早めにコース分けをさせても、その科目を好きにさせたり、重要だと思わせたりする効果は薄いというわけです。

 それでは、いったい何の効果を狙って早めのコース分けをさせているのでしょう? 言うまでもなく進学対策です。実際、大学進学率が高い高校ほどコース分けをする割合が高くなっています。多様化する大学入試に対応するためには選択は早い方がいい、というのは現場の本音ではないでしょうか。しかし2年からコース分けをさせるなら、2年間のコースの中でそれぞれの教科の面白さをじっくり味わわせ、好感度や重視度を高めるような授業が行われてしかるべきはずですが、実際そうなっていないというのは改めて問題視されるべきでしょう。

 入学して1年にも満たない段階でコース選択を迫るにしても、その半年あまりの間に果たして十分なキャリア教育や進路指導が行われているのでしょうか。そうでなければ、結局は教科の好き嫌いだけで選ばざるを得ません。大学進学率が高いほど教科・科目に対する好感度や重視度が高いというのも、もともと「できる」生徒だったから、ということかもしれません。実際、理系コースを選んでいるのは多くが中学校の時にも数学や理科が好きだった生徒です。

 生徒の進路実現のため早期から対策を万全にしたいと思うのは、教員側の「親心」かもしれません。しかし、そうした手取り足取りの指導が生徒の自律的な成長を阻んでいるとしたら、どうでしょう。たとえ合格できたとしても、進学先の大学で自主的な勉強についていけず苦労するのは教え子たちです。受験対策も結構ですが、その受験をきっかけに、どうやって学問や将来の職業生活に興味を持たせ、意欲を育むかが問われるのではないでしょうか。そうでなければ、予備校や塾と変わらなくなってしまいます。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.8.6) ※肩書等はすべて初出時のもの