教えて!「安定的な雇用に就いていない者とは?」

 今春の大学卒業生のうち「安定的な雇用に就いていない者」は11万5564人で、全体の20.7%を占めたことが、文部科学省の学校基本調査で分かりました。前年度より2.2ポイント改善したものの、5人に1人を占める状況に変わりはなく、大学に進学しても4年後には厳しい現実が待っていることをうかがわせます。ところで、この「安定的な雇用に就いていない者」とは、どんな状態の人なのでしょうか。

 政府統計という性質上、堅苦しい定義の説明から始まってしまうことをお許しください。「安定的な雇用に就いていない者」とは、[1]就職者のうち「正規の職員でない者」[2]一時的な仕事に就いた者[3]進学も就職もしていない者――の3者の合計です。このうち「正規の職員でない者」とは、雇用の期間が1年以上で期間の定めがあり、かつ1週間の所定の労働時間がおおむね30~40時間程度の者のことを言います。「一時的な仕事に就いた者」とは、臨時的な収入を得る仕事で、雇用の期間が1年未満または雇用期間の長さにかかわらず短時間勤務の者です。「進学も就職もしていない者」には、進学準備中の者や就職準備中の者も含まれます。ちなみに公務員試験や教員採用試験はもとより、司法試験を目指している場合も「就職準備中」に含まれるのだそうです。

 さて、「安定的な雇用に就いていない者」の内訳ですが、「正規の職員等でない者」が2万2786人(前年度比793人増)で卒業者全体の4.1%(同0.2ポイント増)、「一時的な仕事に就いた者」が1万6850人(同2719人減)で3.0%(同0.5ポイント減)、「進学も就職もしていない者」が7万5928人(同1万638人減)で13.6%(同1.9ポイント減)――となっており、「安定的な雇用に就いていない者」といっても3人に2人は「進学も就職もしていない者」であり、しかも前年度に比べかなり改善されていることが分かります。これは、正規就職した者が35万3173人と前年度より1万8078人増え、正規就職率も3.2ポイント増の63.2%に改善されたことと裏腹の関係にあります。ちなみに、大学院などへの進学者は4035人減の7万2821人で、進学率も13.0%と0.8ポイント減となっています。

 全体では5人に1人という「安定的な雇用に就いていない者」ですが、学部の分野別でもかなり違います。大学院等進学者も多い理系では「工学」10.1%(うち「正規の職員等でない者」0.8%)、「理学」15.7%(同3.7%)、「農学」15.4%(同1.9%)と10%台にとどまっているのに対して、「社会」は20.6%(同2.3%)、「家政」は22.0%(同7.9%)で、「人文」になると28.6%(同6.3%)を占めます。「教育」は31.8%(同15.7%)ですが、これには教職浪人や年間契約の非常勤講師が多いこともあります。

 「正規の職員等でない者」は、非正規雇用の問題がクローズアップされたことをきっかけに前年度から統計を取り始めたものです。そのため2011年度以前のデータはないのですが、就職者に占める「正規の職員等でない者」の割合を出してみると、12年度は6.2%、13年度は6.1%になり、16人に1人弱ほどという計算になります。

 全体としては依然として正規採用者が多いことが分かりますが、それでも「5人に1人」という数字は事実として受け止めなければなりません。前回の記事で紹介した通り、明暗を分けるのは大学時代の勉強や読書です(濱中淳子『検証・学歴の効用』、勁草書房)。高校の進路指導でも、大学に入ってから勉学に励むような意欲を持たせて送り出すこと、さらには「安定的な雇用」が揺らぐ現実の中で、社会人になってからの学び直しも含め、生涯にわたってどうキャリアを切り開くのかを考えさせることも不可欠になっているのではないでしょうか。単に大学に合格させれば良しとしたままでは、困るのは生徒自身です。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.9.18) ※肩書等はすべて初出時のもの