教えて!「高校卒業後の進路」

今年度の学校基本調査の速報値が、先ごろ発表になりました。高校の進路指導担当者にとっての関心事は、高校卒業後の進路でしょう。最新の状況はどうなっていて、結果をどう解釈したらいいのでしょうか。

 今回の注目点は、大学進学率の低下傾向が明確になったことです。現役の大学・短大進学率は2010年度の54.3%をピークに3年連続で減少し53.2%(前年度比0.4ポイント減)に。大学に限ると47.4%(同0.3ポイント減)です。専門学校への進学率は逆に4年連続の上昇で17.0%(同0.2ポイント増)。一方、就職率は3年連続の上昇で16.9%(0.2ポイント増)となりました。

 問題は、この数字をどう読むかです。確かに「大学全入時代」で大卒の価値が昔より相対的に下がっている昨今、大学を卒業しても正規就職できるとは限らないのだから、無理して高い学費を払ってまで大学に進むことはない、とも思えます。景気の回復基調や定年退職者の補充といった理由で、高卒就職に薄日が差していることもあります。大学から就職や専門学校へのシフトがみられるのも、そんな状況を反映してのことかもしれません。

 ただ、心配な点もあります。景気回復の実感がなかなか得られない中で、家庭の経済格差が進学格差に反映しているのかもしれない、ということです。東京大学の小林雅之教授らが行った調査によると、06年調査の時点では国立大学進学者に所得による進学格差はみられなかったのですが、12年調査では所得が上がるほど進学率も高くなる傾向がくっきりと表れました。二つの調査の間には「リーマンショック」(08年9月)があり、これを機に所得格差が深刻化したとみられます。小林教授は、家庭の経済状況が厳しくても子どもが成績優秀なら何とかして教育費を工面する「無理する家計」が日本の大学進学を支えていたのに、今やその無理が利かなくなっているのではないか、と指摘していました。

 奨学金があるじゃないか、とも思えますが、小林教授らの調査では中・高所得層でも高騰する学費の確保策として奨学金の利用率が高まっている一方、低所得層には必ずしも周知が徹底していないことが浮き彫りになっています。日々の生活にも困っている家庭には、卒業後に正規就職できる当てもないのに奨学金を借り続け、4年後には返済しなければならない「借金」を抱えることに不安を持ち、利用をためらう傾向もあると指摘されています。日本学生支援機構の奨学金も今や有利子がメーンで、無利子は利用したくても厳しい状況にあります。

 就職へのシフトも、手放しでは安心できません。就職率が好転したといっても微増であり、しかもリーマンショック前の就職率19.0%(08年度)には程遠い状況です。就職後も順調にキャリアを積み重ねられる職場ばかりとも限りません。高卒就職市場が縮小したままである以上、高卒者に求められる能力もまた厳しくなっていると見なくてはならないでしょう。

 濱中淳子・大学入試センター准教授の近著『検証・学歴の効用』(勁草書房)によると、依然として大卒には全体として収入や安定的な雇用などの「効用」があるといいます。そして明暗を分けるのは、勉強や読書など4年間をどう過ごすかだというのです。

 進路指導に当たっても、ただ生徒が希望してきた進路を尊重する、というのでなく、その背景にある家庭の事情までもくみ取った上でアドバイスし、場合によっては将来のメリットとともにリスクも含めて生徒に説明した上で進路決定を促し、進路先でのキャリアアップを目指すよう励ます――そんな高度な専門性が求められていると言えそうです。

(編注)小林教授らの調査
(文科省「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」第3回配付資料)

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2014.9.3) ※肩書等はすべて初出時のもの