教えて!「オンライン講座『MOOC』って?」

 10月11日、主要大学や企業の関係者による「日本オープンオンライン教育推進協議会」(JMOOC)が設立されました。できるだけ多くの大学に参加を呼び掛けて来春以降、国内はもとよりアジアや世界にインターネットを通じて講座を発信していきたいとしています。こうした取り組みは、教育をどう変えるのでしょうか。どうやら高校の教員にとっても、無縁ではなさそうなのですが。

 MOOCとはMassive Open Online Courses(大規模公開オンライン講座)の略で、2012年から米英の大学が母体となって幾つかの団体が設立されたばかりなのですが、世界トップクラス大学のエース級研究者・教員が続々と参加。受講者も急速に世界中に広がっています。日本でも既に東京大学がMOOCの一つ「コーセラ」(Coursera)に2講座を配信し、京都大学は別のMOOC団体「エデックス」(edX)への参加を決めました。

 MOOC受講後に一定の成績を修めた者には、履修証が発行されます。大学の単位として認定されるとは限らないのですが、高い学修を証明するものとして当該大学に入学を許可されたり、就職時に評価されたりするといったことも行われつつあります。何より国際競争にしのぎを削る大学や企業にとっては、世界中から優秀な学生や社員を集めるチャンスになります。

 世界を相手にするMOOCの講座は当然、英語で配信されますから、日本の大学にとっては相当ハードルが高いのも事実です。そこで日本版MOOCが必要だ、ということになったわけです。JMOOCは日本語による配信が基本ですが、将来的には英語や中国語も視野に入るかもしれないとしています。

 大学生や社会人だけの話とは限りません。JMOOCが広く普及するようになれば、全国どこからでも各大学・学部の代表的な授業を見ることができ、進路選択の有力なツールになるかもしれません。進路指導担当者にとっては無視できない動向だと言えるでしょう。

 そして何より、MOOCにより「学びの在り方が大きく変わる」(JMOOC事務局長の福原美三・明治大学特任教授)可能性も秘めているというのです。設立記者会見では、東大大学院情報学環で「反転学習」の実証実験を行うことも発表されました。基本的な内容はオンラインによるビデオ講義で予習しておき、当日の対面授業では討論や探究型学習、協調型学習活動によって応用課題に取り組む、というものです。従来は基本的な内容を当日の授業で行い、応用課題は復習に任せる、というのが一般的だった学習形態を「反転」させようというわけです。

 そして、大学だけの話でもありません。米国などでは一部の小・中・高校で実践例があります。日本でも10月から佐賀県武雄市の教育監に就任した代田昭久・前東京都杉並区和田中学校長が、15年度までに全小・中学校に配布する予定のタブレット端末を活用して「反転授業」に取り組む方針を表明。11月から小学校1校で試行に入り、順次全校に広げることで学力向上につなげたい考えです。

 反転授業が高校にも広がったら、対面授業ではキャリア教育も含め、多様な形態で幅広い生徒の力を伸ばす高い力量がこれまで以上に求められることになるでしょう。一方的な講義形式で教科書をなぞるだけだったり、大学入試対策が中心だったりする授業ばかりしていては、いつかオンライン授業に取って代わられる時代が来るかもしれない、と言ったら脅かし過ぎでしょうか。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2013.10.16) ※肩書等はすべて初出時のもの