教えて!「問題解決能力って何?」

 経済協力開発機構(OECD)が実施した2012年の「生徒の学習到達度調査」(PISA)で出題された「問題解決能力」で、日本は参加44カ国・地域中3位、OECD加盟28カ国では韓国に次ぐ2位の好成績でした。いったい何が問われたのでしょうか。

 3年ごとに実施されているPISAでは、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの主要3分野が毎回出題されていますが、その他に国際オプションも出題されており、今回は「デジタル読解力」と「デジタル数学的リテラシー」、そして「問題解決能力」が、いずれもコンピューターを使って出題されました。公開されている問題例をみると、おそうじロボットのアニメーションを観察して動きの規則性を理解する、道路地図から最短経路をクリックする、切符の自動販売機の画面を見ながら購入するなど、具体的な生活の場を想定した場面が設定されていました。「クイズみたいで簡単じゃないか」とか「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題(主に活用)で慣れているから成績が良かったんだ」といった評価もあるようです。

 改めてOECDの定義に目を向けてみましょう。そこでは、問題解決能力を「解決の方法が直ぐには分からない問題状況を理解し、問題解決のために、認知的プロセスに関わろうとする個人の能力であり、そこには建設的で思慮深い一市民として、個人の可能性を実現するために、自ら進んで問題状況に関わろうとする意志も含まれる」としています。単に思考力を問うだけでなく、社会の中で課題を解決しようとする関心・意欲・態度の面も測ろうとしていることがうかがえます。

 PISAを担当するアンドレアス・シュライヒャーOECD教育・スキル局次長(事務総長教育政策特別顧問)の持論が象徴的です。「知識はグーグル(のような検索サイト)の中にある。知識を使って何ができるかが、これからは重要だ」。もちろん知識を活用するには基礎・基本となる知識は欠かせませんが、知識をたくさん溜め込めば活用力が付くとは限らないし、汎用性を持つスキルとして身に付いていなければ社会に出てから活躍できず、学校の中だけで好成績を取っても意味はない――ということです。

 しかも次回15年のPISAでは「協調型問題解決能力」として出題が予定されており、複数の人と一緒に課題解決に取り組む場面を想定して課題が設定される見通しです。主要3分野も含め、全面的にコンピューター使用型に移行することにしています。さらに18年のPISAでは「グローバルコンピテンシー」が問えないか模索しているといいます。ますますグローバル化が進むこれからの世界では、決まった正解のない課題に対して、文化的な背景の違う人ともコミュニケーションを取りながら、最適と思われる解答を導き出す力が求められる――という認識が、そこにはあります。

 文部科学省が大学入試センター試験に代わる「達成度テスト」(仮称)の創設で大学入試と高校・大学教育の一体改革を目指しているのも、『「答えのない問題」を発見してその原因について考え,最善解を導くために必要な専門的知識及び汎用的能力』(第2期教育振興基本計画)などを育成しようとしているからです。学習指導要領の次期改訂でも、育成すべき資質・能力を基にして、各教科の目標・内容や学習評価を構造的に見直そうという動きが出ています。そこで育成しようとしているのは、いわゆる「21世紀型スキル」、あるいはその日本版である「21世紀型能力」(国立教育政策研究所)です。

 今までのように教科の枠内だけにとどまって考えていても、将来の社会で求められる力は身に付けさせられない時代が、すぐそこに迫っています。キャリア教育も含めて、教科を超えた資質・能力を意図的・計画的に育成するよう、発想の転換と授業改革が急務です。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/