教えて!「教育格差を乗り越える学校とは?」

全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の委託研究で、児童・生徒の学力が家庭の収入や保護者の学歴によって左右されていることが分かりました。しかし生まれた家庭によって進学先も将来も決まってしまうというのでは、元も子もありません。委託研究では、もっと注目すべき調査結果があるといいます。どういうことでしょうか。


教育格差

 保護者の収入が高いほど学力も高くなるということは、2008年度の一部自治体を抽出した追加分析で明らかになっていました。2013年度、全国学力テストが「きめ細かい調査」として実施される一環で、保護者に対する質問紙調査も行われました。その結果の分析をお茶の水女子大学の研究グループに委託したところ、家庭の所得と両親の学歴を指標化した「社会経済背景(SES)」と平均正答率には、高い相関関係がみられました。

 学習時間が長くなるほど学力が上がることも分かったので、「SESを乗り越えるには、学校外学習に力を入れることだ」と思ったら、最もSESが低い層で3時間以上勉強している子どもより、最もSESが高い層で全然勉強しない子の方が、平均正答率が高かったという衝撃的な結果までついています。不利な家庭に生まれた子はどんなに努力しても有利な家庭の子に追いつけない…というのでは、ますます元も子もありません。

 しかし、委託研究の眼目はそこにあるのではありません。家庭の状況と学力の関係を学校の立場から見ると、在籍する児童・生徒のSESによって学校の平均正答率もある程度決まってしまうことになりますが、中にはSESから予測される学力より飛び抜けた成績を上げている学校が見つかりました。つまり、教育格差の解消に効果を上げている学校が、確かに存在しているというのです。

 そうした学校には、[1]家庭学習の指導の充実 [2]管理職のリーダーシップと同僚性の構築、実践的な教員研修の重視 [3]小中連携 [4]言語活動の充実 [5]各種学力調査の積極的な活用 [6]基礎・基本の定着と少人数指導―といった共通の特徴がみられたといいます。

 要はそうした「効果のある学校」を増やすことが日本の学力の底上げにつながる、ということです。そして、そこには「同僚性」も特徴として挙げられている通り、教員組織が一致団結して指導や研修に当たる態勢が不可欠です。そのためには、成績不振の学校名や校長名を公表したりして学校の尻をたたくだけでは駄目でしょう。不利な条件下にある学校にこそ予算や人を手厚くするような、行政の施策こそが求められます。

 折しも政府では、13年6月に制定された「子どもの貧困対策推進法」(今年1月から施行)に基づき、7月を目途に対策の大綱を閣議決定すべく検討が進んでいます。日本は「相対的貧困率」(可処分所得の中央値の半分を下回る世帯の割合)が18歳未満の子どもで15.7%と6~7人に1人、一人親世帯では実に50.8%と2人に1人と、経済協力開発機構(OECD)諸国でも悪い状況を示しています(2010年)。生活保護受給者の4人に1人は子ども時代に生活保護世帯で通っていたという「貧困の連鎖」を証明した調査もあります(2008年、道中隆・関西国際大学教授)。相対的貧困率の基準となる「貧困線」は年々下がって112万円(月9万円余り)となっています。これ以上の貧困の連鎖と学力格差を防ぐためにも、貧困対策と合わせた教育格差解消策が喫緊の課題です。

 08年度の追加分析で研究グループの一員だった志水宏吉・大阪大学大学院教授は、秋田・福井両県の学力がトップクラスの成績を修めている要因として離婚率・不登校率の低さと持ち家率の高さを指摘し、子どもと家庭・地域・学校との「つながり格差」が学力格差を生んでいると指摘しています(『「つながり格差」が学力格差を生む』、亜紀書房)。志水教授らが08年に大阪府教育委員会とともに「力のある学校」の理想的な条件(スクールバスモデル)を提唱したように、学力はもとよりコミュニケーション能力などを高めるためにも、チーム力を発揮して子どもを勇気づけるような学校を政策的なてこ入れによって増やすことが、いま最も必要なことではないでしょうか。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/