教えて!「日本の教員は世界と比べて…」

日本が初参加した経済協力開発機構(OECD)の第2回「国際教員指導環境調査」(TALIS)の結果が発表されました。勤務時間が世界一長いことや、女性の進出が遅れていることなどが注目されましたが、それだけなのでしょうか。


教育格差

 TALISは2008年に24カ国・地域が参加して第1回が行われ、2013年に行われた今回は日本を含む34カ国・地域が参加しました。コア調査の対象は前期中等教育(日本では中学校と中等教育学校前期課程)の校長と教員です。

 ところで注意したいのは、OECDは何も基礎統計を取るために調査を行っているわけではないことです。国際比較が可能なデータを集め、各国の教育の特徴を浮き彫りにすることで、それぞれの教育政策に反映してもらうことが目的です。いわば内向きの議論ではなく、国際的な視野から今後の教育政策を考えてもらおう、ということでしょう。この点は「生徒の学習到達度調査」(PISA)も同様です。

 さて調査結果ですが、確かに日本の教員は多忙です。1週間当たりの勤務時間は参加国平均より15.6時間も多い53.9時間。授業時間は17.7時間と平均より1.6時間少ないのに、一般的事務には2倍近い5.5時間、課外活動には3倍以上の7.7時間を掛けています。

 ただ、こうした状況は以前から分かっていたことで、文部科学省は「だから定数改善が必要だ」と主張し、財務省が「いや、授業以外の時間が多すぎるのが問題だ。定数改善より業務の見直しが先だろう」と反論して、結局は「子どもと向き合う時間の確保」という、折衷案的な対策が現下の政策課題となっています。

 しかし当のOECDの評価は、ちょっと違います。ちょうど非公式教育大臣会合のため来日していたアンドレアス・シュライヒャー教育局長は記者会見で、もともと日本全体が長時間労働であるとしながら「日本の強みは、生徒のために多くの時間を使っていることだ。特に能力の低い生徒のために努力している」と指摘しました。課外活動の時間が長いのも、学びの場がクラスの中だけにとどまらないという点で「むしろプラスの特徴ではないか」といいます。

 そんなシュライヒャー局長が「素晴らしい」と絶賛していたのが、研修(職能開発)意欲の高さです。教科の専門知識や指導法、評価方法、学級経営、進路指導・カウンセリングなどのニーズが軒並み「世界一」でした。ただ、「日程が仕事のスケジュールと合わない」という回答も86.4%(参加国平均50.6%)と、こちらも世界一です。研修の余裕を確保することこそ、最優先で実現すべき課題でしょう。

 教員の職能開発は、OECDも重視している項目です。というのも、これからの国際社会では「21世紀型スキル」の育成が求められるからです。そのため、指導や学習に関する信念を尋ねる項目では「直接伝達主義的指導観」とは違った「構成主義的指導観」に基づいた指標を設定しています。それによると、日本の教員は「教員としての私の役割は、生徒自身の探究を促すことである」93.8%(参加国平均94.3%)、「生徒は、問題に対する解決策を自ら見いだすことで、最も効果的に学習する」94.0%(同83.2%)、「生徒は、現実的な問題に対する解決策について、教員が解決策を教える前に、自分で考える機会が与えられるべきである」93.2%(同92.6%)と、まずまずの結果です。ただし、「特定のカリキュラムの内容よりも、思考と推論の過程の方が重要である」は70.1%(同83.5%)と低めで、どうしても指導内容に縛られる傾向が見て取れます。

 これからの知識基盤社会で求められるのは、知識の量よりも、知識を使って他者と協働して新しい価値を生み出す「活用力」です。そのために21世紀型スキルが不可欠であり、OECDも2015年実施のPISAで「協調問題解決」を出題する予定です。

 最後に、シュライヒャー局長は、創造的復興教育に取り組む東日本大震災の被災地の学校を例に、こう断言しました。
 「21世紀の学び、21世紀型の教授法、学校間の協働で、日本は優位にある」。


 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/