教えて!「日本の大学のグローバル化」

社会・経済のグローバル化に伴い、大学でもグローバル人材を育成しようとする動きが急速に高まっています。現状はどうなっているのでしょうか。また、高校はどのように対応すればいいのでしょうか。


 英国の高等教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)が、今年の、世界大学ランキングを発表しました。それによると日本の大学は、東京大学が前年と同じ23位でアジアのトップを守ったものの、京都大学は52位から59位に後退。他にも東京工業大学が125位→141位、大阪大学が144位→157位、東北大学が150位→165位と軒並み順位を下げています。細かい順位のつかない201~400位に入っているのも名古屋大学(226~250位レベル)、東京医科歯科大学(276~300位レベル)、筑波大学(301~350位レベル)、北海道大学・九州大学・早稲田大学(351~400位レベル)と、ランキング入りしているのは11大学だけです。

 世界の有力大学では、こうしたランキングを上げるのに躍起になっているといいます。国際的に成果を競い合うのが日常の大学にとっては、国境を越えて優秀な研究者や学生を集めることが必須だからです。日本語で教えるという特殊性から国内ばかりに目が向きがちだった日本の大学も近年、危機感を強めていました。国内トップの東大が世界で低迷しているのも、論文の引用数などは好調なのに留学生や外国人教員の数など国際化指標が足を引っ張っているためです。

グローバル化

 そんな折、文部科学省は今年度から「スーパーグローバル大学創成支援」事業を始め、世界ランキングトップ100入りを目指す「トップ型」には東大など「旧七帝大」に加えて、筑波、東京医科歯科、東京工業、広島、慶應義塾、早稲田の計13大学が採択。トップ100とは言わないまでも先導的試行に挑戦する「グローバル牽(けん)引型」には千葉、東京外国語、東京芸術、国際教養、国際基督教、芝浦工業、上智、明治など24大学(国立21大学、公立2大学、私立14大学)が採択されました。

 世界レベルの研究だなんて、一部の優秀な学生の遠い話だ……と思うかもしれません。しかし、そうではありません。グローバル人材を求める経済界からの要請もあって、多くの大学ではグローバル人材の育成に力を入れています。とりわけスーパーグローバル大学(SGU)に選ばれるような大学は国際標準の教育・研究を目指すことが至上命題ですから、学部段階から教育をレベルアップさせることは必至です。当然、志願者に求めるアドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針、AP)もハードルが上がることでしょう。

 そうした大学に入学させれば万事よし、というわけでもありません。SGUに選ばれるような大学では、学部を超えたグローバル人材育成の特別コースを設け、入学後にセレクションする例も少なくないからです。

 高校側の意識としては、どうしても進路実現のための合格だけに目が行きがちになってしまいます。しかしペーパーテスト至上主義の受験指導では、高い論理的思考力や倫理観、コミュニケーション能力が求められるグローバル人材の素養を培うことは必ずしもできません。既に難関大学に入っただけで将来が保証される時代ではなくなっているのですから、進学後に活躍できる学生を育てるという視点も進学校には不可欠でしょう。そのためには高校段階でどんな資質・能力を育成すべきなのか、高大接続の視点で真剣に考える必要があるでしょう。各教科・科目をしっかり教えるだけでなく、教科横断・総合的に能力を高めることも求められます。

 むしろ大学側の方が危機感を持って、前へ前へと進もうとしています。そんな大学の環境に放り込まれて苦労するのは、生徒たちなのです。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/