教えて!「いつからどんな? 二つの新たな学力テスト」

高大接続の在り方を検討してきた中央教育審議会の答申が、いよいよ12月中にまとまる予定です。2019年度と20年度に相次いで二つの新テストがスタートするスケジュールも既に示されています。新テスト時代の大学入学者選抜、そして高校と大学の教育はどうなるのでしょうか。


 新テストに関して、政府の教育再生実行会議第4次提言(13年10月)では「達成度テスト(基礎レベル)」「達成度テスト(発展レベル)」と名付けていましたが、中教審ではやはり性格が違う両者の違いを際立たせた方がいいということになり、高大接続特別部会の答申案では「高等学校基礎学力テスト」「大学入学希望者学力評価テスト」(いずれも仮称)とされています。

学力テスト

 このうち基礎学力テストは「高校版・全国学力テスト」とも言えるもので、高校生が在学中に自分の学力を客観的に把握し、調査書にも結果を記入することで進学時はもとより就職の成績証明としても使えるようにする一方、高校が結果を今後の指導改善に生かすことができるようにします。ただ、全員参加型の小・中学校と違って、希望参加型となっています。出題は「国語総合」「数学Ⅰ」「物理基礎」「コミュニケーション英語Ⅰ」など、必履修科目が想定されています。

 一方、学力評価テストは名前の通り「大学入学希望者」が受けるもので、「これからの大学教育」を受けるために必要な能力を把握するためのものです。当初は「教科型」に加えて「合教科・科目型」「総合型」の問題を組み合わせて出題することにし、ゆくゆくは教科型を出題しない方針です。

 両テストとも年に複数回実施するとしており、おそらく年2回というのが現実的でしょう。高校2年生から受験できるようにすることも検討されています。全国学力テストのB問題やPISA(経済協力開発機構=OECD=の「生徒の学習到達度調査」)のような「活用」の力を問うことでも共通しています。とはいえ関係者が最も注目するのは、いずれも1点刻みではなく段階別表示で成績が提供されることでしょう。

 1点刻みにしないということに対しては、「それでは公平な入試ができない」という批判が起こっています。しかし、それこそが今回の改革の狙いです。いつまでも1点の違いだけで合否を決める入試に依存し続けていては、グローバル化をはじめとした社会からの要請に応えるための「これからの大学教育」にふさわしい入学生を判定することはできない、という考え方が、そこには込められています。

 「これからの大学教育」では、単に座学で専門分野を学ばせるだけでなく、フィールドワークや討論、発表など多様な形態を採り入れた「アクティブ・ラーニング」(能動的学修)あるいは「プロジェクト学習」を通して、社会で必要とされる課題発見・解決能力やコミュニケーション能力などを身に付けさせることが求められています。一定の知識・理解が不可欠なことは言うまでもありませんが、高校での学習に関しては基礎学力テストで、入学までに必要な知識・理解と思考力・判断力・表現力は学力評価テストで測ることにしています。その上で、各大学・学部の教育の特徴に応じてふさわしい学生を採るために、個別選抜では学力評価テストの成績に加えて小論文や面接、集団討論、プレゼンテーション、入学後の学修計画書といった多様な方法を工夫して、多面的・総合的な合否判定を行ってもらおうとしているのです。

 基礎学力テストは2019年度から、学力評価テストは20年度からスタートするとされており、今の小学校6年生(21年度以降に大学入学)からが対象となる見通しです。ただし、今の高校生にとっても無縁ではありません。文部科学省は15年中にも大学入学者選抜実施要項を見直し、16年度入試以降、できる大学から順次、多面的・総合的な選抜へと転換を図っていってもらいたい方針です。東京大学が「推薦入試」を、京都大学が「特色入試」を、いずれも16年度から実施するとしているのは、その先駆けとも言えます。

 何より注意しなければならないのは、今回の提言が「大学入試」改革を主眼としたものではないことです。時代に応じて大学教育、そして高校教育を変えるために「入学者選抜」を変えるという「高大接続」改革なのです。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/