教えて!「アクティブ・ラーニングは広がるか」

下村博文文部科学相は中央教育審議会に行った学習指導要領の全面改訂を求める諮問の中で、「アクティブ・ラーニング」(課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習、以下AL)の充実を提言しています。ALは高校にも広がるのでしょうか。


 ALとは何か、まだよく知らないという方がいるかもしれません。そういう方は、ぜひ『キャリアガイダンス』本誌Vol.405の総力特集をご覧ください。今後も折に触れて熟読する価値のある、保存版です。

 ALはもともと、2012年8月の中教審答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」(質的転換答申)の中で提言されているように、主に大学教育で用いられていた用語です(「能動的学修」と訳す)。単に授業の内容を学ぶだけでなく、調査や討論、グループワークなどによる課題発見・問題解決を通して、社会で通用する汎用的能力も育成しようというものです。

アクティブ・ラーニング

 今回の指導要領改訂諮問では、大学で行われている手法を初等中等教育にも降ろそうという単純な発想では決してありません。かつて質的転換答申が中教審総会で行われた直後、すぐに平野博文文科相(当時)から「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」が諮問されたことが象徴的です。この諮問に関しては、いよいよ12月22日に答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(高大接続答申)としてまとまります。そして、下村文科相が高大接続改革と指導要領改訂を合わせて「わが国の教育全体の大改革につながるもの」(11月21日の記者会見)と位置付けていることに、注意が必要です。

 2007年の学校教育法改正で「学力の3要素」が法律で定められ、知識・技能の習得だけでなく活用により思考力・判断力・表現力等を育むとともに、学習意欲を養うことが明確になったことは、ご承知でしょう。学校で学んだ知識は学校やペーパーテストの中だけにとどまらず、社会に出てからも「生きて働く力」にまで高まらなければ何にもなりません。ALは初中教育、高等教育を問わず、知識・技能を実社会や実生活で活用し、更に実践に生かせるような能力を培う学習方法として注目されています。

 そして高大接続答申では、大学入試センター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)で受験生の思考力・判断力・表現力等を中心に評価し、各大学の個別選抜では「主体性・多様性・協働性」(学校教育法上の学力の3要素では「主体的に学習に取り組む態度」)も評価して選抜する、というふうに構想されています。つまり、大学でALをはじめとした教育によって汎用的能力を育むためにも、高校までの教育で思考力・判断力・表現力や主体性・多様性・協働性の育成が期待されているのであって、次期指導要領ではそれを初中教育版のALで高めよう、という格好になっているわけです。

 もちろん本誌のインタビューで文部科学省の田村学教科調査官(生活、総合的な学習の時間)が述べているように、授業全部を探究学習にするよう求めているわけではないようです。しかし、受験対策にも有効だからといって教え込み中心の授業を続けていては、逆に今後の大学入学者選抜にさえ通用しなくなるかもしれません。しかも大学の方がALを積極的に取り入れるなど変化のスピードが速いのですから、現行指導要領の下でも「総合的な学習の時間」での探究活動や各教科等の言語活動に力を入れなければ、生徒が大学に進学した後で苦労することになるかもしれないのです。今こそALの授業研究に、学校を挙げて取り組むべきではないでしょうか。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/