教えて!「大学の『個別』入試はどうなる?」

大学入試改革をめぐって、文部科学省は2020年度から大学入試センター試験を廃止し、年複数回実施で思考力・判断力・表現力などを問う「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)を創設することにしています。しかし、各大学の個別入試は来春(2016年度)から変わり始めるといいます。どういうことでしょうか。


 高校教育・大学教育・大学入学者選抜を一体とする「高大接続改革」についての中央教育審議会答申(14年12月)を受けて、文科省は1月、「高大接続改革実行プラン」を策定しました。

個別入試

 取り組み施策として、学力評価テストなど新テストの話より先に「各大学の個別選抜の改革」が挙げられていることが注目されます。そこでは、答申でも提言されていたことですが、16年度以降、順次「適切なルールの下での入学者選抜全体の多面的・総合的な評価への転換を図るため、一般入試、推薦入試、AO入試の区分を廃止した新たなルールを構築するために、大学入学者選抜実施要項を見直す」とうたっています。

 実施要項といえば通例、前年の5月に策定されます。16年度にどれだけの内容が反映されるかは今後の検討に委ねられますが、新テストを中心とした抜本改革を待たずに、できる大学から改革を急いでほしい、という姿勢がうかがえます。

 答申に先立って、16年度から東京大学が「推薦入試」、京都大学が「特色入試」の導入を決めたことは、以前の記事でも紹介しました。大阪大学も17年度からAO入試の導入を検討していると伝えられています。

 しかし、こうした動きを今までのような単なる入試方法の多様化と捉えてはいけないでしょう。そもそも答申では、一般・推薦・AOといった入試区分そのものを廃止しろと言っているのです。旧来の入試区分の枠にこだわらず、「知識・技能」はもとより「思考力・判断力・表現力」、さらには「主体性・多様性・協働性」(学校教育法上の規定のうち「態度」=学習意欲を入れ替えています)の学力の3要素を測るために、各大学が明示するアドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)に基づいた「選抜」方法を工夫すべきだ、ということです。それは必ずしも、ペーパーテストによる1点刻みの「入試」とは限りません。

 実行プランでは、そうした各大学の取り組みを「実行」させるさまざまな仕掛けも用意しています。
  ▽15年度中を目途に、アドミッション・ポリシー、ディプロマ・ポリシー(学位授与=卒業方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施方針)の一体的な策定を義務付けるよう法令を改正する
  ▽15年度中を目途に、大学に義務付けている認証評価の評価項目に「入学者選抜」を明記する
  ▽15年夏を目途に、アドミッション・オフィスの整備・強化のインセンティブ(意欲刺激)となるような財政措置の具体策を取りまとめる――などです。


 とりわけ最後の「財政措置」が効力を発揮するでしょう。これはもちろん、丁寧な入学者選抜を行うには専門スタッフの拡充など経費が掛かることに対応しようというものですが、入学者選抜改革に乗り出す大学を財政的に優遇するということは、裏を返せば旧来型の「入試」を続ける大学は優遇しないよ、ということを宣言しているに等しいからです。

 そうでなくても先に見た東大、京大、阪大のように、トップクラスの大学は危機感を持って改革を先取りしようとしています。新テスト創設の前に、雪崩を打ったように「入試」が変わっていく、といった事態が起こるかもしれません。

 「そんなに入試が急に変わったら、高校は対応できない」と思うでしょうか? 今般の「高大接続改革」が単なる「入試改革」(≠入学者選抜改革)にとどまらず、高校教育や大学教育を変えることを目指しているものであることを、見逃してはいけません。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/