教えて!「これからの教員養成・採用・研修」

「チーム学校」という言葉が、教育改革をめぐるキーワードとして浮上しています。下村博文文部科学相の諮問(昨年7月)を受けて中央教育審議会が作業部会を設け、教員以外の専門的スタッフの配置を念頭に置いた検討を行っています。それに伴って、教員の養成・採用・研修も大きく変わりそうだというのですが、どういうことでしょう。


教員養成

 まず「チーム学校」について説明すると、これまで教員が学習指導から生活指導まですべてを丸ごと引き受けてきた状況を改め、学校事務職員はもとよりスクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)なども加えて、教員がしっかり子どもに向き合う時間を確保するとともに、各人が専門性を発揮して役割分担をしつつ、お互いに協力することでチームとして学校全体の教育力を上げよう――という発想です。

 昨年6月に発表された経済協力開発機構(OECD)の「国際教員指導環境調査」(TALIS)では、「世界一忙しい」日本の教員の実態が国内の注目を浴びました。実際、「現場は限界に来ている。何とかしてほしい」と思っている教員は多いのではないでしょうか。他のスタッフ職が仕事を分担してくれるなら、歓迎すべきことでしょう。

 ただ、注意しなければならないことがあります。チームとして仕事を分担した後の、「高度専門職」としての教員はどうあるべきか、ということです。

 昨年7月、大臣の諮問の直前に中教審の教員養成部会の「教員の養成・採用・研修の改善に関するワーキンググループ」は、「学び続ける教員像」という考えを打ち出していました。そこでは、現在の教員に変革が求められているとする一方、学部4年の教員養成で一人前の教員を養成することは限界が来ていることから、「教員となる際に必要な基礎的・基盤的な学修」と位置付け、教職大学院修了者の積極的な採用や、採用後の教員研修の改善に期待を込めています。教員養成部会としても昨年11月、養成・採用・研修の一体的な改革に関する報告をまとめており、「チーム学校」の論議も踏まえて今夏をめどに教職員の在り方を本格的に検討することにしています。

 ところで今後の教員には、何が課題となるのでしょうか。部会報告では教員の役割について、「知識基盤社会への対応」「国際化への対応」「人口減少社会への対応」を挙げています。社会の変化に対応して教員の指導力にも大きな転換が迫られている、というわけです。

 一方、中教審では次期学習指導要領の改訂に関する本格的な審議が教育課程企画特別部会で始まっており、いわゆる21世紀型学力も念頭に「育成すべき資質・能力」に基づいた指導要領の「構造改革」を目指しています。そこでは、「何を知っているか」にとどまらず、「何ができるようになるか」の観点を一層重視し、アクティブ・ラーニング(課題発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習、AL)などの学習を通して汎用的な資質・能力を育成することを目指しています。大胆な教科再編などは行われない見通しですが、学習目標はもとより、これまでの学習内容の扱いも大きく変わることが予想されます。そうした21世紀の学びを担う存在として、高度専門職である教員の役割が期待されているのです。先のTALISにしても、OECD当局が日本に着目していたのは労働時間の長さではなく、21世紀型の学びに向けた研修意欲の高さと、研修したくてもできない現状でした。

 「チーム学校」が論議されているからといって、「じゃあ教員は、これまでのように担当教科の専門性を高めればいいんだな」と早合点していてはいけません。「教科の専門性」自体が、育成すべき資質・能力に基づいて再定義される可能性もあるのです。ALに関心を持たず、キャリア教育の視点で学習内容を社会と結び付けることもせず、旧態依然の専門性にこだわる教員は「うちのチームには必要ない」と言われる日が来るかもしれない……と言ったら、大げさでしょうか。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/