教えて!「なぜ教員の『国家資格化』か」

教育再生実行本部が教師の「国家免許」化を提言したことが話題を集めました。教員免許といえば、これまで大学が所在する都道府教育委員会から授与されてきました。
本当に国家資格になるのでしょうか。そもそも、なぜ今こんな話が出てきたのでしょう。


国家資格化

   まず結論から言いましょう。少なくとも当面は、国家資格にならないでしょう。というのも提言した先が、自民党の「教育再生実行本部」だからです。政府の「教育再生実行会議」とは別組織です。かつて文部科学省幹部が明かしたところによると、党「本部」の役割は「高めのボール」を投げることなのだそうです。事実、党「本部」提言の2日後に出された政府「会議」の第7次提言には、国家資格化のコの字もありません。「本部」の投げたボールを、「会議」は捕らなかったわけです。

 では、国家資格化とは与党サイドの絵空事だったのでしょうか? どうも、そうとは言えないようです。党「本部」は第4次提言の中で国家免許課の理由を「チーム学校」の中心を担う教師に優れた人材を得るためとしており、遠藤利明本部長は記者会見で「学校の先生が地域や子どもたちから尊敬されるためには国家免許がふさわしい」と説明しました。

 注目すべきは、政府「会議」の提言で、「教育の革新」を実践できる優れた人材が集まるようにするため、国・地方公共団体・大学等が連携して教職生活全体を通じた「育成指標」を明確にすること、国が整備する「全国的な教師の育成支援拠点」で都道府県・政令指定都市教委が実施している教員採用選考の「共通試験」を実施することを提案している点です。首相直属の政府「会議」が提言したことは、文部科学省も真正面から受け止めなければなりません。近く中央教育審議会が本格的な審議を始めることになりそうです。

 「本格的な」と書いたのは、実は、中教審が既に部会レベルで「育成指標」に該当する論議を行っているからです。2012年8月の中教審答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」は、「学び続ける教員像」の確立を提唱していました。教職は言うまでもなく、免許を取得すれば、あるいは義務である初任者研修や十年経験者研修を受ければ、事足りるというものではありません。社会や子ども、学校教育に求められるものの変化に伴って、一生学び続けなければなりません。養成・採用・研修の各段階を一体として捉え、連続する職能成長を支援していくことが求められます。しかも教員になってからは、初任・中堅・ミドルリーダー・スクールリーダーといった各段階で、求められる職能も変わってきます。

 教員に対する世間の目が厳しくなっているだけでなく、アクティブ・ラーニング(課題発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習、AL)など、求められる資質・能力は高度化する一方です。だからこそ「育成指標」を策定して、それに見合った職能成長を促すよう支援して教員の資質・能力を向上させ、社会の信頼に応える教職にしていこう――という考えが、そこには貫かれています。

 ところで先の中教審答申は民主連立政権下でまとめられたもので、当時は教員免許の「修士レベル化」が検討されていました。修士レベル化自体は自公政権に戻ってから立ち消えになりましたが、現在も教職大学院を現職研修に活用する方策が検討されています。文科省も国立大学に教育学研究科の改組を迫るなどして、全都道府県に教職大学院を整備したい考えです。政府「会議」提言にも現職教師が教職大学院で学修しやすくすることが盛り込まれていますから、かつての「内地留学」以上に大学院への垣根が低くなるかもしれません。

 ただ第1次安倍内閣によって導入された教員免許更新制に関しては、見直そうという話は当然ながら出ていません。せいぜい義務付け廃止も含めた十年研の見直しに落ち着きそうです。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/