広島女学院大学 学長 湊 晶子氏

(2015年5月25日更新)

4年間を経て、「ぶれない個」を確立する女性のキャリア教育。
生涯を生き抜ける、そのための自信を育んでいきたい

リベラルアーツ教育とは、ぶれない個を確立するための教育

 日本人の意識構造は、「もしあなたがそうなら、私はこう」というように、「私」があとになるのが典型的な形だと思います。私自身は海外での生活が長く、多くの日本人留学生を見てきましたが、日本人は異質な文化に入っていけない弱さがあると感じます。グローバルな時代にいい意味での自己主張、自己確立ができていなければ、いくら英語が話せてもグローバル人材にはなれません。ですから、一番大事なことはぶれない「個」を確立するということです。では、そのためにはどうすればいいか。これが広島女学院大学で行っているリベラルアーツ教育です。

 リベラルアーツ教育とは、人格教育と言われます。人格とは何か。英語ではpersonalityです。パーソンなのです。これはキャピタルレター(大文字)の“GOD”との関係においてできた言葉。本学は広島県の中で唯一のプロテスタントの女子大学で、キリスト教に立脚したという部分が縦軸になります。グラフを書くのにも温度だけでは点が打てません。日付という横軸があれば誰でも点が打てます。その縦軸に対して、人間、人の間という横軸があり、そこで初めて「ぶれない私」が確立できるのです。座標に自分を位置付ける、これこそが本学が根本的に建学の精神としているところです。

 そのうえでグローバルであるということ。本当の意味でのグローバルを実現しようと思ったら、「私」があとになっていたらできません。イエス、ノーを言える人物。「人材」ではなく、「人物」を作ることが、本学の人格教育の原点であると言いたいですね。

女性のキャリア教育とは、仕事だけでなく、一生涯を生き抜く力

 以前、学長をしていました東京女子大学でも生涯教育に取り組んできましたが、ここ広島女学院大学でも「女性のキャリア教育」については特に力を入れているところです。キャリアとは、一般的には就職というイメージでとらえられるかと思いますが、何もお金を得ることだけがキャリアではありません。金銭化されない労働、例えば主婦労働、ボランティア労働、定年退職後の労働などもキャリアといえます。 定年退職後に元気がなくなってしまう方がいらっしゃいますが、これは「キャリア概念」をしっかりもっていないからだと思います。私は80歳を過ぎていますが、一生涯、自分に与えられたキャリアを生き抜きたいと思っています。

 育児休暇もなければ、男女雇用機会均等法もない時代に、3人の子育てをしながら大学で教鞭をとっていましたが、「子どもを産む」ということは女性にしかできないこと。どうしたって、代われないことなんです。育児、家事、仕事と、なんで私だけがこんな思いをしなければいけないんだと、悔しくなる日もありました。そんななかで生まれたのが、このキャリア概念です。

 お金をフルにいただく仕事に就いている時だけがキャリアではなく、人生を生き抜くということがとても大事であるということ。そして、そのなかで女性の人生は男性とまったく同じという訳にはいかないんですよね。 本学では、女性のライフサイクルに合わせて、どの時点からでも大学に帰ってきてエンパワーできる仕組みをつくり、一生涯にわたってサポートできるよう環境を整えようと思っています。女性の社会進出を支える女性のエンパワーメント支援というのは、女子大学でないとできないことだと思っています。

ようこそ「サロン・ド・ミナト」へ。「イングリッシュ・アイランド」も始動

 私は最後の一校になっても共学化はせず、女子大学でいきたいと思っています。私も女子大学出身ですが、あの経験があったからこそ今があると思っています。力仕事でも何でも、頼らないで自分でやるという環境のなかで、自信とリーダーシップを学びました。また、人生のモデルとなる女性の先生とも出会えました。その先生の背中を追っていたら、いつの間にか学長にまでなっていました。

 そういう「生き方」というものは、大学時代の4年間で方向が決まります。偏差値の高い大学に入ったから成功ではなく、この4年間で何を学んだか、どういう人物になって巣立っていくのかがその大学の価値なんです。入学式や毎週行っている「チャペル」「キリスト教の時間」でも折に触れて、こういった話をしています。また、講義するだけでなく、学生にもスピークアップしてもらい、自分の考えを発信する訓練も日常的に行っています。

 この学長室は「サロン・ド・ミナト」といって、先生や外部の方だけでなく、多くの学生も出入りしています。悩んだ時、話したい時、ぜひここに来てほしいですね。

 また、大学には「アイリス・インターナショナルハウス」という建物がありますが、ここをイングリッシュ・アイランドとして活用していきます。学年を問わず、英語が苦手でも、まずこの雰囲気のなかで自信をもって英語でコミュニケーションすることを学んでほしいと思っています。

 さらに、図書館にある1階スペースでは、姿勢や説得力のある話し方、マイクにのる発声法、歩き方に至るまで教えていきたいと思っています。男女に関係なく、人を惹きつける雰囲気をもつというのはそういうところで決まりますので、しっかり若い世代へお教えしたいと思っています。

まもなく130周年。変わらず「今を生きる女性」を育てます

 広島女学院は1886年創立で、2016年に130周年を迎えます。1886年といえば明治時代です。そんな時代に男性である砂本貞吉がキリスト教女子教育のために学校を造った。これはすごいことです。

 先日、経済同友会で講演をしましたが、聴衆は全員男性でした。これは海外から見たら異常なことです。日本における女性管理職のパーセンテージは大変低い。そんななかで、私は女性のリーダーを育てたいのです。英語が話せればリーダーになれるかといえば、なれません。いい意味での自信をもち、いい意味での自己主張ができる人、どこに行っても成功できる人を育てたいと思っています。といっても、肩肘張って男性を突き飛ばしながら進んでいくような女性というのではないのです。女性は女性として、いつまでもかわいらしくあってほしいという思いもあります。

湊 晶子氏

【Profile】

湊晶子(みなと・あきこ)氏
1955年、東京女子大学文学部社会科学科卒業。1960年、フルブライト奨学生としてホイートン大学大学院修了(神学修士・2008年名誉博士)。その後、ハーバード大学客員研究員、NHK教育テレビ英語会話中級講師、東京基督教大学教授、東京女子大学教授を経て、2002年~2010年東京女子大学学長。ワールド・ビジョン国際理事。2014年4月、広島女学院大学学長に就任。日本私立大学連盟。2010年「瑞宝中綬章」受章。元大学基準協会理事。著書『女性を生きる』(角川書店)他。

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