学校法人村崎学園 徳島文理大学・徳島文理大学短期大学部 理事長 村崎 正人氏
(2015年5月25日更新)
120年前から変わらぬ教育への熱い思い。
深化する「自立協同」の精神を、教育の場に具現化しています
他者の協力、他者への協力なくして、人間の自立はあり得ない
今から遡ること120年前、学祖・村崎サイは「女も独り立ちが出来ねばならぬ」という信念を持ち、本学園を設立しました。日本で初めて女性参政権が認められたのは今から70年前のことです。その50年も前に女性の自立を唱えたわけですから、サイという人は、実に進歩的な考えを持った女性でした。
その後、本学は戦火で学園のほとんどを消失し、学祖も学園と運命を共にする悲劇に見舞われます。戦後は前理事長である村崎凡人が学園の復興を目指し、総合学園の設立に精魂を傾けるのですが、その過程において、前理事長は、他からの協力、他への協力なくして、「人間の自立」はあり得ないと確信したそうです。そこで、前理事長は学祖の思いをさらに深化させ、教育は自立を促す協同の場であらねばならない(すなわち、他からの協力、他への協力という体験の中で、学生たちが人間的な成長を遂げ、自立をはかる教育でなければならない)と考え、「自立協同」を本学の建学精神としました。
現在、我々もこうした先人たちの思いを引き継ぎ、学位授与における「ディプロマ・ポリシー」、教育課程提供に関する「カリキュラム・ポリシー」、そして本学が求める学生像を明確にした「アドミッション・ポリシー」といった3つの方針を策定し、「自立協同」を具現化できる人材の育成に力を注いでいます。
また、私が理事長に就任した折りには、学生が安全な環境の中、安心して学べる大学づくりを第一に考え、施設・設備の充実を推進してまいりました。その結果、27年を費やして学舎すべての耐震化が完了。全国でもトップクラスの教育研究経費(毎年45%程度)をかけて、各学部学科に最先端の設備を導入。他にも中四国最大規模の図書館や世界で4番目となるキャノピー(可動式音響反射板)を設置した「むらさきホール」などをはじめ、全国屈指の施設・設備が大学内に数多く揃っています。
多様な価値観が養える総合大学。協同を体得するには最適の環境
では、徳島文理大学の魅力はいったいどんなところにあるのでしょう?
ひと言で表現するなら、私はさまざまな協同体験が得られる環境が整っていることだと考えています。そして、それを可能にしているのが、9学部26学科を有する「総合大学」という本学の側面です。実は私立大学607校中8学部以上を有するのは、全国においてわずか36校しかありません。さまざまな価値観が集うという点では、我々の大学は大変恵まれた状況にあるといってよいでしょう。学生たちは自分と異なる価値観を持った他者を意識することで、互いを尊重し合う関係を築くことができ、そうした関係の中から、彼らは自然と自分自身の世界を広げていくことができます。それこそが人間の成長であり、共に学ぶ喜びでもあります。
また、本学は徳島県、香川県という地域の大学でありながら、毎年全国からたくさんの学生が入学しており、2015年度は44都道府県から学生が集まっています。こうした環境も多様な価値観の醸成に大きな影響を与えていることは間違いありません。さらに最近ではアジア、ヨーロッパ、北米など、11カ国・37大学と提携を結び、学生の交換留学や教授の招聘などを行っているため、大学を介して世界各国の多様な価値観にふれる機会も広がっています。毎年本学から海外留学へ出発する学生は約50名。主な行き先は韓国、カナダ、オーストラリア、台湾などで、一部費用面のサポートも大学側で行っています。また、卒業年がずれ込む心配をなくすため、単位互換制度も整備しています。一方、韓国、台湾、中国、ベトナム、ポルトガルといった海外からも約100名の留学生を受け入れているため、徳島にいながら世界を身近に感じることも可能です。
その他、中四国の私立大学で過去3年間トップランクの「文部科学省 科学研究経費補助金」獲得額や学生一人ひとりに寄り添う教育(たとえば「担任・チューター制」や修学をサポートする「全学共通教育センター」「電子化した学習ポートフォリオ」、細やかな「就職サポート」、充実した「教員養成講座」…etc.)などもすべて、他からの協力、他への協力という「協同」の精神に支えられた教育の実践です。友人・先輩・教職員、さらには留学生といった多様な他者との出会いがくれる「協同体験」こそが、本学の最大の魅力であり、学生自身の「自立」を無限化する最良の教育であると私は捉えています。
夢をかなえ、未来を生きるための、「かなえるチカラ」を養う
120周年という節目の年を迎えた今、本学では「かなえるチカラ」というキャッチフレーズを設けて、より時代にマッチした「自立協同」の教育を展開しているところです。「かなえるチカラ」とは、学生がそれぞれの夢をかなえ、希望の道を歩めるように、人間力を養うことだと我々は考えております。そのためには、地域を拠点とする大学として、地域との連携力をさらに強化し、地域社会に貢献できる人材を送り出していかねばなりません。もちろん本学ではこれまでも地域とのつながりを深く意識してきたものの、学部単位のつながりが主流でした。今後は大学として一体化した取り組みができるように、2015年度より「地域連携センター」を学内に設置。9学部26学科のスケールメリットを生かした地域貢献に取り組んでいく所存です。
具体的な活動としては、「公開講座の充実」「薬学部による中間山地の薬局開設」「生活習慣病予防の健康セミナー」「遍路道清掃(総合政策学部)」「各種演奏会(音楽学部)」「テレコメディアと連携した糖尿病の栄養相談(人間生活学部)」「保育園・幼稚園を招待してのおとぎの国開催(短期大学部)」「近隣地域の癒しとしての学内街路樹イルミネーション」など、すでに実施している内容を含めて予定をしております。
他にも、理事長である私が年に1度、1年生を対象とした「文理学」と称する講義を設け、本学の建学精神と歴史に加え、なぜ大学で学ぶのかといった根本的なことを見つめ直す機会を学生たちに提供しています。「文理学」の中には、「地域学」といった分野も設置して、遍路ウォークなどで地域に学ぶ学習も実施しています。大学について知り、学びの情熱を確認し、そして地域を学ぶ「文理学」は、いわば自分の足下を固め、一歩踏み出すための授業でもあります。これまでに本学を卒業した学生は6万6千人を数えますが、その皆様に卒業式においてお願いしているのは「照らし合いの精神」であります。例えば、本学を卒業した学生たちが社会において頑張ることで、その活躍は後輩を含め現在の徳島文理大学を照らしてくださいます。一方で我々教職員や在学生が頑張ることで、卒業生の方々を照らすことができます。互いに照らし合うことで、切磋琢磨することができると考えております。「自立協同」の建学精神を在学中に学び、卒業後には「照らし合いの精神」で本学と繋がってほしいという思いを胸に、毎年「文理学」の授業にのぞんでおります。
学生一人ひとりが「かなえるチカラ」を手に入れるため、これからも本学の挑戦はまだまだ続きます。徳島県、香川県を代表する私立大学として、また、地域に育てていただいた大学としての使命を十分に自覚し、私たちは未来を創造し続ける大学でありたいと願っております。
【Profile】
村崎 正人(むらさき・まさと)氏
1947年生まれ。1986年に学校法人村崎学園の理事となり、1989年には理事長・学園長ならびに徳島文理大学・徳島文理大学短期大学部の副学長に就任。また、学外においては、文部科学省の大学設置・学校法人審議会委員や独立行政法人評価委員会臨時委員、教育職員養成審議会委員などを歴任。日本私立大学協会においても常務理事の要職をつとめる。2010年には、長年にわたる教育分野への功績が認められ、内閣府より「藍綬褒章」が授与される。