前橋工科大学 学長 星 和彦氏

(2015年6月8日更新)

工学の基礎は、人間と人間の営む生活への理解
少人数大学の利点を活かし、
一人ひとりの資質と能力を最大化する教育を目指す

設立の原点も今も「モノづくり」が起点

 前橋工科大学の前身は、戦後まもない1952年に設立された夜間の前橋市立工業短期大学です。向学心のある若者に、モノづくりの精神と専門知識を身に付ける場を提供し、戦禍からの復興を志す担い手になってほしいとの願いから生まれたものです。

 その後、昼夜開講の短期大学を経て1996年に現在の4年制工学部単科大学、前橋工科大学が誕生しました。4年制になった当時は3学科でしたが、現在は社会環境工学科・建築学科・生命情報学科・システム生体工学科・生物工学科・総合デザイン工学科の6つの学科と大学院を併せ持つ大学へと成長しました。

 本学が誕生した当時と現在では、時代も環境も大きく変わり、大学としての体制も変化しました。しかし、一貫してモノづくりに起点を置いた学びの場であり続けたことは、本学の特徴であり個性と言えるでしょう。

 私は、これから工学を学ぶ学生に、2つのことを大切にしてほしいと思っています。一つは、「人間と人間の営む生活を実感として捉える」ということです。IT技術が高度に発達した現在、私たちは多くの情報を簡単に入手できますし、仮想体験をすることもできます。しかし、机に座ったまま得られるバーチャルな現実だけで学んだ気になってはなりません。工学の基礎は、人間と人間の生活を理解することにあります。紙の上や、コンピュータの画面だけで工学は学べるものではありません。前橋工科大学での4年間を通じて、知識の修得に留まらず、自らの手や身体、心で感じ取る実体験を積み重ねていってほしいと願っています。

 もう一つは、「一つの答えを出し、それで満足しない」ということです。高校までの勉強は、正しい一つの解を求めることに力点がおかれていたでしょう。しかし、大学での学びは、簡単に結果を出して済ますことではありません。様々な試行錯誤を通じて得られることに意味があります。失敗し、間違えても、そこから多くのことを学び取ることが大切です。問題や課題にどのように取り組むか、その方法論を身に付けることこそが重要なのです。

 こうした方法論を自らのものとすれば、いかなる状況においても、どのような問題に対しても、自らの考えを通じて的確かつ独創的な成果を達成することが可能になると、私は考えています。ぜひ、目先の結果を恐れず、自分のやり方をしっかり磨いていってほしいと思います。

能力・資質を最大化する「十人十色」の教育の実現

 前橋工科大学は、1学年270名ほどの小さな大学です。それで6学科も要るのか、多すぎるのではないかと、疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私はこのことはアドバンテージだと捉えています。なぜなら、前橋工科大学の6つの学科は食・医療・生活など幅広い領域をカバーしており、学生一人ひとりが自分の関心のあるテーマにフォーカスした学びを実践できるからです。また、教員にとっては学生との距離が近いことから、一人ひとりの学生に対して、その人の持つ資質を高めることができる丁寧な教育を行うことができます。小規模の大学である利点を生かし、教員一人ひとりが真剣に教え、学生一人ひとりが真剣に学ぶことで、能力・資質を最大化する「十人十色」の教育を実現していきたいと考えています。

 前橋工科大学では近隣の3つの公立大学、群馬県立女子大学・群馬県立県民健康科学大学・高崎経済大学との連携により、3年前に「四大学間での単位互換協定」を結んでいます。各大学はそれぞれ特色のある学部・学科を有しており、学生はそれぞれ興味のある講義を受けることができます。本学の学生は、関心のある領域をさらに広げることが可能だということです。率直に言って、距離や移動時間の問題があり、4大学間の連携はまだ十分に活用されているとは言えません。今後は、地域の公共施設を利用してサテライトとして学べる場を作るなど、積極的に取り組んでいきたいと思います。

復興の時代に世界を指向した「精神」を貫く

 前橋工科大学は公立の大学として「地域の知的創造拠点」という重要な使命を持っています。ここで大切なのは、この使命をお題目とするのではなく、行動を通じて実践することだと私は考えています。冒頭でお話ししたように、本学は工学の基礎である「人間と人間生活への理解」を促す実体験を大切にした教育を行っています。商店会と連携した様々なプロジェクトや、2日で3000人の参加者を集める「子ども科学教室」は、その一例です。こうした取り組みを通じて、学生は人間と生活への理解を深めることができ、また地域も教員・学生を含めた大学の持つ「知」を具体的に活用することができると思います。

 変化が激しく、グローバル化がさらに加速している今、教育と地域貢献の両面でさらに大学として進化していくためには、前橋工科大学にはまだまだやらなければならないことが数多くあります。本学はそうした課題に対して、入試の仕組みの見直しやカリキュラムの改定など、ひとつずつ真摯かつ実践的に取り組んでいきます。

 本学には工業短期大学時代に作られた校歌があり、その2番に「羽ばたく夢は 世界の空に・・・新しき文化を築く」とあります。60余年も前に、戦災復興という差し迫った状況にありながら、既に世界を指向し、新しい文化へと目を向けていたことを、本学は忘れてはなりません。校歌に謳われた夢と精神を一歩ずつ実現していくことこそ、これからの前橋工科大学の目標であり使命なのです。

星 和彦氏

【Profile】

星和彦(ほし•かずひこ)氏
1951年東京都生まれ。東京都立大学(現:首都大学東京)大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。専門分野は西洋建築史(英国建築)•建築文化資源学。1994年前橋市立工業短期大学助教授に着任。1997年前橋工科大学工学部•建築学科助教授、2007年工学部教授を経て2015年同学学長に就任。主な著書に『図説西洋建築史』(共著) 彰国社(2005)、『ノコギリ工場群の活用による都市再生モデル調査報告書』(共著)/経済産業省関東経済産業局刊(2005)、『元総社用地(染谷川)利活用調査報告書』(共著)/群馬県住宅供給公社刊(2011)、『インテリアデザインの歴史』(共訳) 柏書房(2015)などがある。

前橋工科大学の情報(リクナビ進学)

大学・短大トップインタビューに戻る