大阪府立大学 理事長・学長 辻 洋氏

(2015年6月15日更新)

教育・研究、地域社会、国際社会、
すべてに垣根のない大学から
新しいつながりを築いていく

学部の垣根を取り払う学域制の導入

 大阪府立大学は2012 年、従来の学部組織を見直し、専門領域を横断して学べる学域制を導入しました。「現代システム科学域」「工学域」「生命環境科学域」「地域保健学域」の4学域で、私自身「現代システム科学域」設置の責任者を務めました。「現代システム科学域」は工学、生命科学、社会科学、人文科学など多様な分野の教員で構成されており、学生は自分の専門以外にほかの専門分野も履修しないと卒業できない仕組みになっています。学域制の1期生が今年度末に卒業しますが、学域という新しい制度に関心をもってくれたモチベーションの高い学生が多いと感じます。入学してから自分の進みたい道を決められる制度が、うまく機能しているのではないでしょうか。

 この改革はさまざまな成果をあげており、4つの学域が連携して新しい教育プログラムを構成したり、分野の異なる教員が共同して研究プロジェクトを立ち上げたり、部局の壁を取り払ったことでさまざまなつながりが生まれています。私が理事長・学長として力を注いでいきたいのも、そうした垣根のない大学づくりです。垣根のない大学から新しいつながりをつくる。それは学内にとどまらず、地域社会や企業とのつながり、大阪市立大学とのつながり、さらにはアジア諸国など世界との新たなつながりを築いています。

独自の教育・研究・社会貢献モデルを孵化させる「21 世紀科学研究機構」

 学域制の導入で加速したのが、部局を超えた教育・研究を推進する「21 世紀科学研究機構」の活動です。この機構はバーチャル研究所として2006 年に創設され、その実績に基づき2009 年に独立した部局として設置されました。異なった専門分野の教員がチームを組むことを条件に、教員自らの発案で研究所を開設できるというシステムになっています。発案者が所長を名乗ることもできます。しかも3年で終了しても、また継続してもよいことにしていますので、負担なく容易に始められます。7研究所からスタートしたのですが、現在では教員の発案で開設する第Ⅰ群に21 研究所、戦略的な調査・研究のために学長が指定する第Ⅱ群に19 研究所、戦略的な調査・研究のために学長が開設する機構直轄の第Ⅲ群に4 研究所。合計44もの研究所を有するまでに発展しています(2015 年4 月現在)。

 これら研究所の活動から、産学連携拠点である植物工場研究センターやBNCT 研究センターが整備されたほか、観光・地域創造分野と量子放射線分野の大学院専攻が設立されるなど、新しい教育・研究分野の創設および地域貢献にも結びついています。植物工場研究センターは経済産業省と農林水産省両方の採択を受け、2棟の研究拠点を整備し研究開発を行ってきましたが、さらにその成果を踏まえて経済産業省による「先端技術実証・評価設備整備等補助金」の採択を受け3棟めとして完全人工光型植物工場を整備し、研究実証として日産5000 株ものリーフレタスなどを生産しています。BNCT 研究センターは、腫瘍細胞を選択的に破壊するホウ素中性子捕捉療法向けの薬剤研究に特化した世界初の施設です。

 いずれの研究も従来型の共同研究ではなく、地域のさまざまな企業とコンソーシアムを形成し、製造業、金融業、自治体などと一緒になって新しい創造に取り組むスタイルです。企業の方を客員研究員としてお招きする制度も取り入れていますので、相当な数の人たちが共同研究にかかわっています。これからも本学だけで完結させるのでなく、周囲とのつながりを大切にするとともに、アントレプレナー育成教育を含め府民への貢献を強く意識した研究を進めていきます。

グローバル人材育成に不可欠なリベラル・アーツ教育

 現在、大学教育における大きな課題の一つであるグローバル化への対応で、重要なのが幅広い教養を培うリベラル・アーツです。本学では教養教育・共通教育において、高等教育推進機構というその中核を担う組織を設置し、全学の教員が協力する体制で、文理の垣根を超えた知識を習得できるようにしています。

 とりわけ重要なのが導入教育です。初年次ゼミナールは最大18 名という少人数のゼミナール形式の授業で、4つの学域の学生が混在した形で行われます。教員が与えたテーマについて、学生自らが調べてプレゼンテーションをするなど、受動型から能動型へと学びの転換を図ります。そうしたアクティブ・ラーニングの態度を身につけることを始めとして、地域の課題を自発的にみつけ解決できる人材を育成したいと思 います。この地域の課題解決という点について本学は、文部科学省のCOC 事業(「地(知)の拠点整備事業」)に大阪市立大学と共同で採択され、地域再生のための教育プログラムを実施しています。地域再生の拠点となる大学機能の強化には、今後とも力を注いでいきます。

学内と地域の国際交流の新拠点を開設

 グローバル社会の一員となるためには、英語を話すだけではなく、さまざまな国の歴史と文化を知り、お互いの違いを尊重するマインドの育成が大切です。本学は、留学生と日本人学生の共同生活を通じて、多様な文化・価値観を理解する場を目指す国際交流施設“I-wing なかもず”を2015 年4 月にオープンしました。4名で1つの部屋をシェアし、各部屋に留学生のサポーター役を務める日本人学生を1名入居させることにしています。そのほかに、施設内に国際交流課の事務室を置いて、学生と教職員だけでなく、地域の方の国際交流をサポートする「サポートエリア」と、国際理解講座、海外留学に関する情報提供イベントのほか、地域の方と一緒になって国際交流イベントを開催する「交流エリア」を設け、地域に開かれた国際交流の拠点にしていきます。日本人学生の入居希望者が予想以上に多く、すでに満室になっています。従来の昼間だけの交流と生活を共にするのとでは、相互理解の深まりがまるで違います。日本文化を伝えたり、留学生から文化を学んだり、擬似留学の体験ができるものと期待しています。

 本学には学域制による専門分野を超えたつながり、地域社会や企業とのつながり、“I-wing なかもず”を拠点にした国際社会とのつながりなど、多様な人と人との結びつきがあります。これからも「高度研究型大学―世界に翔く地域の信頼拠点―」の理念のもと、垣根のない大学づくりを進め、自らさまざまなつながりを築いていける学生を育成していきます。

辻洋氏

【Profile】

辻洋(つじ・ひろし)氏
1953 年生まれ。1976 年京都大学工学部卒業。1978 年同大学院工学 研究科修士課程修了。同年株式会社日立製作所入社(~2002 年)。この間、米国・カーネギーメロン大学客員研究員やスタンフォード日本センター客員研究員や大阪大学大学院などの非常勤講師。2002 年大阪府立 大学大学院工学研究科教授。2007 年学術情報センター情報システム部長(~2011 年)、2012 年現代システム科学域長、学術情報センター長補佐(~2013 年)。2013 年理事(教育研究担当)・副学長兼地域連携研究機構長兼21 世紀科学研究機構長(~2015 年)。2015 年4 月より現職。
専門領域は経営情報システム。博士(工学)、技術士(情報工学)。
※《辻》の正しい表記は一点しんにょうとなります。

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