教えて!「大学のゆくえ」

L(ローカル)型・G(グローバル)型大学と専門職業大学、国立大学人文社会系学部の縮小…。昨年末から、大学をめぐるニュースが尽きません。大学入試をはじめとした「高大接続改革」と併せて、高校の先生方もやきもきしていることでしょう。いったい、高等教育界に何が起こっているのでしょうか。


教えて!「大学のゆくえ」

   まず、報道をめぐって幾つかの誤解もあるようなので、真相をはっきりさせておきましょう。「L(ローカル)型大学・G(グローバル)型大学」という分類は、文部科学省の有識者会議で委員の一人が提案したものですが、雑誌やネット上で話題になった割には、会議で正面から検討された形跡はありません。

 正式に提言されたのは「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関」(専門職業大学ないし専門職大学)です。ただ、今までの大学が学問の教授に偏していたという反省を基に、専門職業人を養成する新たなタイプの大学を作ろう、という点では、背景となっている認識は同じといってもいいかもしれません。従来の大学・短大の他、専門学校からの移行も想定されています。今年3月の教育再生実行会議第6次提言にも盛り込まれ、それを受けて中央教育審議会に特別部会が設置されて本格的な検討が始まっていますから、いずれ制度化されることでしょう。専門高校や総合学科高校の卒業生の有力な進学先としても期待できそうです。

 一方、国立大学の人文社会系削減ですが、確かに文科省は先ごろ、国立大学長などに対する通知で「教員養成系」と「人文社会科学系」の学部・大学院を名指しして「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換」を求めています。ただ、教員養成系に関しては、いわゆる「ゼロ免課程」の廃止を求めたものだと文科省自身が説明していますし、むしろ教職大学院は全都道府県の国立大に整備したい考えです。これに対して人文社会系は、確かに現状では入学定員が多すぎるという認識があるようですが、一律に削減を求めるものではなく、あくまで経営主体である国立大学法人の判断に委ねています。

 もちろん、国立大学予算の大きな原資となる運営交付金は文科省が握っていますから、実質的には予算を盾にした「圧力」と言えるかもしれません。ただ、学部・大学院の在り方は2013年11月に策定した「国立大学改革プラン」に基づく「ミッションの再定義」として既に各大学に検討を求めていたものであり、今回の通知で急に廃止・縮小を求めたわけではありません。
 ただ、こうした政策の加速的な展開は、長らく大学改革の必要性が叫ばれていたにもかかわらず、なかなか変われない大学に対して業を煮やしたものである、という側面も否定できないでしょう。


 中教審が大学に「機能別分化」を求めたのは、10年も前の答申(2005年1月のいわゆる「将来像答申」でした。18歳人口が減少する中で高校卒業生の2人に1人が進学し、実質的な「大学全入時代」を迎えて、「大学」の在り方も一つではなく、各大学の自主的判断で緩やかにタイプ分けされていくべきことを提言していました。しかし、とりわけ国立大は「ミニ東大」的発想がなかなか抜け切れなかったようで、機能別分化はなかなか進みませんでした。

 そこで文科省は国立大学改革プランの中で、①世界最高の教育研究の展開拠点 ②全国的な教育研究拠点 ③地域活性化の中核的拠点――の3タイプのいずれかを選択するよう迫りました。ちょうど国立大学について6年間を見通した「中期目標期間」の第3期(2016~21年度)を控えて、今が再編のタイミングになっているというわけです。

 大学には「社会が求める人材を育成していないのではないか」という厳しい目が向けられている一方、成長戦略・地方創生を担う役割として政府から期待もされています。小康状態だった18歳人口も、2018年度からまた減少期に入ります。大学側も国公私を問わず、生き残りを懸けて改革に突き進むことでしょう。そうした変化を敏感にキャッチできないと、生徒に進路選択のアドバイスをすることもできない時代になりつつあるのです。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/