教えて!「教科を超えるカリキュラム・マネジメントって?」

次期学習指導要領の基本方針を集中的に検討する中央教育審議会の特別部会が、「論点整理」に向けて大詰めを迎えています。各学校種別や教科・領域等の専門部会が発足するのは秋以降ですが、今回の改訂に限っては、この論点整理が教科等を超えて、決定的に重要な意味を持ちます。高校現場は、今からどう備えればいいのでしょうか。


教えて!「教科を超えるカリキュラム・マネジメントって?」

   次期指導要領をめぐって、当コーナーではこれまで2回にわたり、アクティブ・ラーニング(AL)と、科目見直しについて紹介してきました。高校教育について特別部会では3回を費やし、 主な教科・科目の具体的なイメージも示されています。

 審議過程では、ALはもとより、もう一つのキーワードが改訂の重要ポイントとして浮かび上がってきました。「カリキュラム・マネジメント」です。しかも、とりわけ高校でこれが重要になってくるというのです。

 言うまでもなく高校のカリキュラムといえば、単位制が基本です。必履修科目を含めた科目等を生徒に履修させ、それぞれを修得することによって単位が認定され、74単位以上を修得すれば卒業が認定される仕組みです。「何を当たり前のことを」と思われるでしょうか?
今回の改訂で高校に問われているのは、この「単位積み上げ方式」そのものだと言っても過言ではありません。


 実は、単位積み上げ方式に対する批判は、これまで大学教育について行われてきたものです。それぞれ学問体系に基づいて構成された講義のバラバラな知識を124単位以上集めて卒業したというだけで、本当に社会で活躍できる人材に育つのか。そうではなく、4年間の「学士課程教育」を通して大卒人材にふさわしい汎用的能力(学士力)を育てるようなカリキュラムを、全学的な立場から編成するべきだ――。大学教育改革の基調には、そうした問題意識があります。もともと大学教育の用語だったAL(能動的学修)も、そうした汎用的能力を育成するための手法として導入の促進が求められてきたものでした。

 指導要領の改訂と「車の両輪」で進められているのが、高大接続改革です。高大接続改革は単なる「大学入試改革」ではなく、大学教育と高校教育、そして、その間にある大学入学者選抜(大学「入試」とイコールではありません)を三位一体で改革しよう、というものです。高校教育改革と大学教育改革は、相互に連動していることに注意する必要があります。もっと言えば、指導要領改訂と高大接続改革の両輪により、幼児教育から高等教育までの一貫した教育改革を目指しているのです。

 そこで文科省は国立大学改革プランの中で、(1)世界最高の教育研究の展開拠点 (2)全国的な教育研究拠点 (3)地域活性化の中核的拠点――の3タイプのいずれかを選択するよう迫りました。ちょうど国立大学について6年間を見通した「中期目標期間」の第3期(2016~21年度)を控えて、今が再編のタイミングになっているというわけです。

 そうした教育課程改革の中では、各教科等もそれぞれの枠内に閉じこもってはいられません。これまでの特別部会では、教科学習を「各教科に固有の知識や個別のスキル」(知識・技能)、「各教科の本質に根ざした問題解決の能力」(思考力・判断力・表現力等)、「各教科を通じて育まれる情意、態度等」(主体性・多様性・協働性=学習意欲)という、「学力の3要素」に対応した構造化のイメージも示されています。各教科で学習する内容はそれほど変わらないとしても、教科の学習内容を通して身に付けるべき資質・能力(コンピテンシー)は、教科等を超えて、卒業までに生徒にどう身に付けさせるかを、学校として考えなければいけません。だからこそカリキュラム・マネジメントが重要になってくるのです。

 これからの高校組織、あるいは個々の教員には、教科等の枠を超えて生徒にコンピテンシーを身に付けさせるようなカリキュラム編成や、指導方法の改善が求められます。だからこそのカリキュラム・マネジメントであり、ALなのです。もう、自分の担当教科を教えることだけ考えていればいい時代ではなくなっているのです。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/