神奈川工科大学 学長 小宮一三氏

(2015年8月31日更新)

社会人力=人間力基礎力応用力
4年間で社会人力を磨き抜くために
「学生本位主義」を貫く

「科学技術立国」に貢献できる技術者を育てる

 神奈川工科大学の前身は、1963年に中部謙吉氏が開学した幾徳工業高等専門学校です。当時大洋漁業社長の要職にあり、日本経済を牽引していた氏が厚木の地に教育の場を開いたのは、日本が「科学技術立国」を目指し、産業の発展を促すためには技術者の育成が不可欠との思いからでした。開学時は、機械工学・電気工学・工業化学の3学科・学生数150名でしたが、その後1975年に幾徳工業大学に改組、さらに地域に根差した大学に発展することを期し、1988年に神奈川工科大学と改称しました。現在、本学は5学部13学科、大学院6専攻、学生数約5200名を擁する工科系総合大学に成長しています。

 本学が生まれた当時と現在では、社会環境も大きく変わり、科学技術も進化しています。しかし、日本の産業の発展に貢献できる技術者が必要とされていることに変わりはありません。神奈川工科大学は、時代を見据えた改革を重ねながら、「広く勉学意欲旺盛な学生を集め、豊かな教養と幅広い視野をもち、創造性に富んだ技術者を育てて科学技術立国に寄与するとともに、教育・研究を通じて地域社会との連携に努める」という建学の理念を堅持しています。建学の理念を礎に、「社会のニーズに応える課題解決型の研究開発」「学生本位主義」「地域連携・地域貢献」を3本の柱とし、社会から信頼され、期待される大学として歩みつづけていきたいと考えているのです。

「この大学で学んで良かった」と学生に感謝される大学を目指す

 3つの柱のなかで、とりわけ本学らしい特色をもつのは「学生本位主義」です。私は学長に就任したとき、「学生本位主義を基本姿勢にする」と学内外に宣言しました。「学生本位主義」とは、一言でいえば学生が「この大学で学んで良かった」と実感でき、「学生に感謝される大学」です。そのためには、学生一人ひとりの可能性を見出し、導き、伸ばす、きめ細かな教育と充実したキャンパスライフにつながる学生支援が重要になります。何よりこの考え方が基本姿勢として教職員に共有されていなければなりません。教職員の意識改革からスタートした「学生本位主義」は、教育環境からカリキュラム、さまざまな支援制度等、ダイナミックに実践され、本学のすみずみまで息づいていると自信をもって言えます。

 教育環境の充実では、「すべては学生のために」の方針のもと、平成18年からキャンパスを再開発し、中央緑地や学生サービス棟、学生が気軽にモノづくりを体験できる「KAIT工房」、数々の教育研究施設を擁するトップレベルの環境を備えています。また、創立50周年記念事業として新講義棟、新体育館「KAITアリーナ」の建設、グラウンドの人工芝化が完成し、現在多目的広場も建設しています。さらに重要なのは、学生の力を伸ばす教育の実現です。神奈川工科大学では時代の変化に対応した人材育成のあり方を検証しながら、先駆的な教育改革を行ってきました。私自身も平成21年から「教育開発センター」の所長を兼任し、教育の仕組みづくりに携わってきました。神奈川工科大学の「新教育体系」は、3年余りをかけた全学的議論を経て平成24年度から全面的に導入されています。

何を学んだかを主眼とする「新教育体系」で質の保証を行う

 新教育体系は、社会の中堅を担う人材の育成を目標とし、社会で活躍できる「考え、行動する人材の育成」を目指すものです。そのため、新教育体系では「何を教わったか」より「何を学んだか」を主眼とする教育目標を明確にし、確実に力を伸ばす教育課程の編成と質の保証を行っています。特に重視しているのは、主体的な学びにつながる動機づけ=導入教育と、社会へ巣立つ前に社会との接点をしっかりともつことです。

 私は、社会で活躍していくための力とは、人間力と基礎力、そして専門性を含めた応用力の総和だと捉えています。学生たちが神奈川工科大学で過ごす4年間という時間のなかで、それをスムーズかつ効果的に修得するために、新教育体系では教育課程を大幅に改革しています。具体的には、基礎教養・専門教養・専門と積み上げていく従来型の体系を打破し、人間力を養うための全学共通基盤教育をベースとし、「必要な学習事項(基礎)」と「知識・理論・就業力的な知識」、「技術・実習・体験就業力実践」と有機的に連携させた「ユニットプログラム」を導入しています。さらに資格支援講座やキャリア講座も一体化し、4年間を通じて「ユニットプログラム」を学ぶことで、社会で活躍していくための力を身につけることができるのです。なお本学では、全科目のシラバスで何を学べるかを明確にし、学生と教職員の約束として位置付けています。また、本学では平成26年度から、環境エネルギーや医生命科学、ICT、次世代自動車、機械工学、ロボットなど先進分野で学ぶ意欲が高く、学業成績の優れた学生を対象に「スーパーサイエンス特別専攻」を設け、グローバルに活躍できる人材の育成を行っています。

学生の興味や夢を応援する大学へ

 最後に、今年開設した「看護学部看護学科」と「工学部臨床工学科」について触れておきたいと思います。工科系大学になぜ看護学部と不思議に思われる方がいらっしゃるかもしれません。本学ではすでに健康や医療、環境等にかかわる「応用バイオ科学科」と管理栄養士課程を学ぶ「栄養生命科学科」のに2学科があります。ご存じのようにいま社会全体として健康意識が高まっていますが、あの東日本大震災以降、健康や安全・安心に対する社会のニーズはさらに高まっており、それに応えることのできる人材育成が求められています。本学には機械や電子、化学や情報系の学科があり、それらと連携することで「さらに拡大する在宅医療に対応できる」「災害時に対応できる」「保健医療福祉チームの連携に寄与できる」「ICTを使いこなせる」看護師の養成を目指しているのです。健康や生命は、すべての人にかかわること。神奈川工科大学は今後、健康・生命を主要テーマの一つとして取り組んでいきます。

 学生に感謝される「学生本位主義」として、神奈川工科大学はまだ途上にいます。新教育体系でのカリキュラムの実践に加えて、興味を伸ばすプログラムや施設も積極的に増やしていこうと考えています。本学には最先端の研究を進めている12の研究所やさまざまな分野の150以上の研究室があります。昨年度にはロボットやICT、サウンド技術の実用化を目指す先進技術研究所も発足しました。本学で学ぶ学生が興味や夢をもち、自ら積極的に行動できるよう、やりたいこととその成果を単位として認定する仕組みも考えているところです。「この大学で学んで良かった」と学生が心底思える大学を目指して、これからも努力と研鑽を重ねていきたいと思います。


小宮 一三氏

【Profile】

小宮一三(コミヤ・カズミ)氏
1971年早稲田大学大学院修士課程修了(電気工学専攻)。同年4月電電公社(現 NTT)通信研究所入所。ファクシミリ、画像処理の研究実用化に携わる。1993年10月神奈川工科大学電気工学科(現 電気電子情報工学科)教授。2005年4月同大学副学長・情報工学部長・情報ネットワーク工学科(現 情報ネットワーク・コミュニケーション学科)教授。2009年4月から現職。工学博士。

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