四国学院大学 学長 末吉高明氏

(2015年8月31日更新)

学部の枠を超えた大学独自の取り組みで
社会から必要とされる人材を育成。

一般的な価値観にとらわれない、独創的な教育が存続の条件

 現在、日本の高等教育制度そのものが岐路に立たされているのではないでしょうか。20世紀後半ぐらいからの動きをみてみますと、“ブランド名のある大学に入学し、一流企業に入社するのが成功者の人生”という価値観が培われました。言い換えれば、“偏差値の階層が人生の階層を表す”という考え方が21世紀になった今も根強いです。就職活動においても同様のことが起きています。大学で何をどれだけ勉強したかについてはほとんど問題とされず、どの大学に所属しているのかというブランド名重視になっているのです。また、経済的な豊かさが人々を幸せにすると信じている人もまだまだ多く見られます。

 2020年に入試改革が実施されますが、このようなブランド名重視の価値観がある限り改革の実現は難しいと感じています。例えば、国立大学がフンボルト理念を取り入れ、入学は簡単だけど卒業できる学生は半分、あるいは4分の1になるといった教育制度の道を選ぶことが、抜本的な改革に必要なことかもしれません。

 また、大学運営の面から見ても、多くの私立大学ではメンタリティの育成をはじめ、経営思想に至るまで国立大学と同じになっています。それでは初めから勝負が見えています。小規模な大学だからこそできることがあるはずです。例えば、商店街のシャッター通りに面した店でも、独自の取り組みが注目され、遠方からもたくさんのお客さんが通ってきます。知る人ぞ知る名店という存在です。これからの地方の小規模な大学は、こうした一般的な価値観にとらわれない独創的な教育を行うことが存続の条件となると思います。シャッター街でも定まった客が絶えずおとずれる名店のように、小規模であっても入学していただける大学として、独創的な教育を確立していきたいと考えています。

リベラルアーツ教育で学生の目的意識が明確に

 本学は現在、文学部、社会福祉学部、社会学部の3学部で構成されています。“キリスト教信仰における人格の尊厳と自由”を建学の精神とし、創立時からの伝統として、入学時からリベラルアーツ教育を実践しています。3つの学部の枠組みを超え、19メジャー(主専攻)+1マイナー(副専攻)から学びたい専攻を選択できるメジャー制度も導入しています。

 今の高校生を見ていると、はっきりとした目標に向かっている学生はごく一部です。将来のイメージ像がなく、資格さえたくさん取得すれば安心だと、安易に考えている学生が多いような気がします。これでは、自分はどのような使命を持って社会のために働くのかという社会的責任が欠落していきます。その点メジャー制度では、学生一人ひとりが主体となって自分の専攻を選ぶことができ、転学もしやすいため学生のモチベーションもアップします。幅広い分野から最も関心のあることを学ぶ中で、自分が納得できるスタイルをみつけることができるのです。

 また、資格取得をバックアップする「キャリア拡充コース」を設置しています。ただし、本コースのカリキュラムは資格マニアの方のためではありません。オープンキャンパスでも常に伝えていることは、例えば保育園教諭と幼稚園教諭の免許を同時取得することは理に適っていると思いますが、幼保教諭と高校の教員免許の同時取得は、目指す対象がまったく違うということ。資格さえ取得できればという方は、そもそも教育に関心が低いか漠然としているのではないでしょうか。はっきりとした目標を持たずに教育の現場に立ってはいけないのです。

感性やコミュニケーション能力を高める「ドラマ・エデュケーション」

 皆さんもご存じのとおり、現在はネット社会であり、一冊も本を読まない学生が40%というデータが示す通り、活字離れが進んでいます。本を通していろいろな考え方や感性を磨く時代ではないなかで、何かほかに適したものはないかと模索していました。その時目にしたのが、劇作家である平田オリザさんの対談です。とても感銘を受けたのを覚えています。客員教授としてすぐにきていただけるよう、メールで直接交渉し、大学全体のカリキュラムの中に本格的な演劇教育「ドラマ・エデュケーション」を導入しました。このドラマ・エデュケーションは俳優志望の学生向けというものではなく、一般の学生も受講できます。教職や社会福祉の場で一番必要とされるコミュニケーション能力や感性、思考力が身につけられるので、本年度からはキャリア拡充コースの必修科目としています。

 現代の教育制度の改善を求める教育者として、高校の先生方にお伝えしたいことは、ブランド名で大学を選ぶことが生徒の幸せという理念での進路指導は少し考え直していただきたいです。もしブランドが先行する進路指導ということであれば、生徒の将来を考えているのではなく、学校の実績や名誉こそが重要視されているとの印象をぬぐえません。また、地方大学のカリキュラムは貧弱という理由で別の大学を薦められた生徒は、間違った認識をしてしまいます。地方の大学であっても十分に整っているのです。単純に偏差値だけで進学する大学を決めるのではなく、将来の目標や大学の理念、教育内容などで決めるように、高校の先生からも伝えていただくことが必要だと思います。これからの地域社会を担っていくためにどのような人材を輩出する必要があるのかという視点を持って、進路指導をしていただくことを願っています。

末吉 高明氏

【Profile】

末吉高明(スエヨシ•タカアキ)氏
1949年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。米国ジョージア州アトランタ大学センターにて神学修士号(M.Div.)取得。高等学校で教諭を務め、1986年より四国学院大学勤務。教養部長、社会学部カルチュラル・マネジメント学科長などを経て2003年より現職。
専攻はアメリカ黒人思想。

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