名古屋商科大学 理事長 栗本博行氏

(2016年2月22日更新)

定評あるビジネススクール(MBA)メソッドを生かし、
大学教育の常識を覆す100%アクティブラーニングを実現

2016年「都心型コース」開講

 名古屋商科大学は、2015年で学園創立80周年を迎えました。しかし松尾芭蕉の「不易流行」という言葉のとおり、伝統と革新のバランスこそが重要だと思っています。現在、本学はこれまでのビジネススクールで培ってきたノウハウを生かし、画期的な大学改革を進めています。それが、2016年4月に新設する名古屋キャンパスで開講の「都心型コース」です。

 最大の特長は、すべての専門科目で実際の企業のビジネス事例を学ぶケーススタディに特化したアクティブラーニングを展開するということ。これによって、学生が自らの考えを社会に問いかけられる「フロンティア人材」の育成を目指します。このような学修スタイルは欧米の大学やビジネススクールでは一般的ですが、今まで日本では全面的にアクティブラーニングを導入する大学はありませんでした。

 従来の教育スタイル、つまり黒板の前で教員が一方的に話をし、受講生が聴くという講義形式は千年以上も変わりません。しかし、アメリカ国立訓練研究所の学習定着率を示すラーニングピラミッドによれば、一方的な講義による学習定着率は極めて低いとされており、定着率を上げるためには、まったく異なる学修スタイルが求められています。

 本学大学院では、2000年よりビジネススクール(MBA)教育を展開し、高い成果をあげています。また2003年には社会人向けのウィークエンドMBAを開講しました。ここでは全講義でグループセッションを行い、受講生は実際のビジネス課題に対してグループで議論し、高い課題解決力をもつビジネスパーソンを育成してきました。この学修手法を、学部教育に取り入れる。これこそが都心型コースのテーマであり、他では真似ができない本学ならではの学修手法だと自負しています。

アクティブラーニングに特化した教育

 経営学とは、人間の行動の集積です。経営者はいい加減に経営判断をするのではなく、時には苦渋の選択をすることもあるでしょう。そんな学問を指導するのですから、単純に会社の歴史やデータだけを見て経営学の指導をしたくないのです。

 都心型コースの最大の特長は、徹底したアクティブラーニングにあります。その核となるのがケーススタディです。学生は企業のビジネス現場における課題を自らの視点で考え、学生間でディスカッションを行い、課題解決力を養います。教員は教えるというよりも「ファシリテータ」の役割を担い、学生が主体的に授業に参加できるようサポートします。

 討論のテーマも、最初から「投資家をどう思うか」といった設定はせず、例えば「投資家は敵か味方か」というシンプルな選択肢を用意して学生に考えさせます。そして学生に自分なりの立場を決めさせてから、その理由を話させます。この手順を踏むことで、後のフィールドワークや講義の理解がより深まるのです。また、経済以外のテーマでも、法律書を読むだけでなく実際の事例を扱います。例えば、ある営業社員が退職した後に前の会社のノウハウで商売をすることは是か非か、あるいはアルバイトが起こした問題をマネジャーである自分はどう考えるかなど、身近な話題で学生が参加しやすいよう配慮します。

 しかし、いくら参加しやすいといっても、一教室80名の前で自分の意見を言うのは簡単ではありません。本コースでは、授業の最初に10名程度の小グループで課題についてブレストを行い、多くの意見を見聞してより理解を深めていきます。このブレストを行うことにより、80名を前に臆することなく発言できるようになります。ここで重要なのは一人ひとりが事前に予習を行い、考えをまとめておかなくてはいけないということです。つまり高校までの学修とは異なり、授業の前に基本的な勉強は完了しておかなければならないのです。

従来とはまったく異なる教育スタイル

 また本コースでは、これまでのような定期試験は実施しません。従来型の評価スタイルでは、学生が主体的に授業に参加し、学生同士で講義を作るという学修スタイルの意味がなくなってしまいます。その代わり、予習レポートや講義中の発言、グループワークでの積極性といった「講義への貢献度」で評価します。例えば、事前の課題について学生が発言できなければ、大きなマイナスポイントとなります。厳しいように見えますが、社会人の視点で考えれば、会議で発言しない人物が、その場にいる意味がないと評価されるのと同じで当然のことといえます。

 卒論も同じです。本コースでは、修了課題として自分が関心をもった企業に関するレポートをケースライティングとして提出することになっています。それは単なる調査報告ではなく、自分が経営者になったつもりで課題を見いだし、解決策を示した計画書でなくてはなりません。すべてが実際の経営に即しています。

 幸い、学修のコンテンツとなる事例は世界中に存在しています。現在、本学だけで700程度の事例をコンテンツとして用意しており、今後も毎年100ケース程度のペースで増えていきます。

 ほかにも、本コースはビジネスの実際のシーンや現場をフィールドワークによって積極的に体験する「GEMBA(現場)スタディ」を重視しています。このように企業の事例や消費者の行動を分析・観察し、現場における経営課題を自ら発見し、解決する能力を養います。

 また海外インターンシップや海外留学にも力を入れています。海外インターンシップでは、現在年間約100名の学生が東南アジアの現地法人でビジネスの現場を体験しています。帰国した学生と話すと、海外の経験が彼らを大きく成長させてくれたことを実感します。そこで、より多くの学生が海外体験をできるよう、本コースでは2カ月で授業が完結する年間4ターム制を採用しています。

全学一丸となって教育改革に取り組む

 こうした教育の大胆な改革を実現できた背景に、教員の意識改革があります。本学では教員の約9割がビジネスの実務経験をもっています。最近、本学の心理学の先生に「心理学とリーダーシップ」という本を紹介したところ、「ぜひ講義で使いたい」と言っておられました。この先生に限らず、全教員が新しい挑戦に前向きに取り組んでいます。経営学という学問のコンテンツ自体が大きく変わることはありません。しかしこうした教員の高い改革意識と新しい挑戦に前向きに取り組んでいく姿勢があれば、教育手法そのものはどこまでも進化させられると信じています。

 新コースは、教室にも従来にない工夫を凝らしました。例えば、ハーバード大学のビジネススクールを参考にして教室の窓をなくしました。外光が入らないため、教員も学生も集中できると好評です。また各人が大きなネームプレートを置くスペースも用意しました。すべてはアクティブラーニングのための設計になっています。さらにクリエイティブシンキングのための教室や、ホール、ゲストルームなども用意しました。

 そう考えると、この取り組みにはとてもコストがかかっています。でも、それは日本のビジネス教育の常識を覆すための投資だと考えています。それほど私たちは本気です。

 最近、都心型コースは高校生や高校教員、生徒の保護者から高い評価をいただくようになったと聞きます。2016年の開講を待ち遠しく思います。


栗本 博行氏

【Profile】

栗本博行(くりもと・ひろゆき)氏
1998年、神戸大学大学院経営学部卒。大阪大学経済学研究科にて修士(経済学)および博士(経済学)を取得。製品開発戦略を主な研究対象とし、製品アーキテクチャと製品ライフサイクルを中心に規格競争分析に関する論文を多数執筆。近年はビジネススクール教育を通じて事業承継(ファミリービジネス)に関する研究に取り組む。現在、ビジネススクールではMBAプログラムの立ち上げからカリキュラムまで幅広く携わり、修了課題となるケースライティングのアドバイザーを担当する。名古屋商科大学教授(経営学部長)および学校法人栗本学園理事長

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