園田学園女子大学・園田学園女子大学短期大学部 学長 川島 明子氏
(2016年2月8日更新)
仕事だけではない
女性の多様なキャリアを
支える大学でありたい。
知識を知恵に変える「経験値教育」
本学は1938年(昭和13年)、地域社会の女子教育に貢献することを目的に開学しました。いま女性の力が脚光を浴びていますが、本学は創立時から一貫して社会で活躍できる自立した女性の育成に取り組んできました。
本学の教育における最大の特色は、「経験値教育」という方法論を取り入れていることです。これは学内での講義や実験・実習で得た知識が、どのように社会で生かされるかを実感する具体的な経験を重ねる本学独自の学びです。ボランティアなどで実際に地域へ出て活動し、学問と実践を結びつける経験を通じて、知識を知恵へと変えていきます。本学は2013年(平成25年)に文部科学省の「地(知)の拠点整備事業<大学COC>」(自治体と連携し、全学的に地域を志向した教育・研究・地域貢献を進める大学を支援する事業)に採択されましたので、「経験値教育」の機会をより豊富に提供できるようになっています。
地元の尼崎市をフィールドに地域貢献に取り組んできた
そもそも本学は開学以来、教育・研究と並んで「地域貢献」を柱にしてきた大学です。大学COCに採択される以前から、地元である尼崎商工会議所と連携した商店街マップの製作や地元企業と共同で商品開発を学生たちが行うなど、地域貢献活動で実績をあげてきました。現在、その取り組みはより活発になっており、学内に「まちの相談室」を設置して学生が主体的に地域のNPO や企業からのニーズをお聞きしたり、大学共通科目に尼崎市をフィールドにした演習科目「つながりプロジェクト」を新設し、活動の幅を広げています。この「つながりプロジェクト」は2016年度からスタートする大学必修科目で、尼崎市や尼崎商工会議所とともに地域の課題解決に向けての企画立案と提言を行うPBL(Project-Based Learning)型の授業です。学部・学科横断の学生が組んで参加しますので、学外だけではなく、学内でのつながりも築いていってほしいと思います。
学科の学生全員の名前を覚える教員たち
地域貢献に加えて、学生一人ひとりを大切にする学風も本学に根付いている伝統です。例えば学科会議。学科単位で会議をもち、すべての教員が学生個々の出席状況などを共有して、担任やゼミの教え子でない学生の近況の把握や、所属学科の学生全員の顔と名前を覚えるように努めています。私も学科の教員を務めていたころは、1年生から4年生までほぼ全員の名前を覚えていました。学内ですれ違ったときなどに、何かあれば「○○さん」と声をかけるためです。学生は教員から声をかけてもらうだけで励みになるようです。こうした教員と学生の距離の近さや学生一人ひとりを大切にする本学の伝統は、これからも堅持していきます。
また、本学の就職状況は大学・短期大学部ともに良好ですが、それはすべての学科が国家資格・免許および民間資格の取得に結びつく構成になっているだけではなく、本学がマンモス校ではないことが幸いしていると思います。キャリア支援課の職員と教員が連携した就職サポート体制を確立しているほか、大学ではゼミの、短期大学部では担任の教員が学生の状況を常に把握していますので、就職が決まるまで一人ひとりに対してきめ細かくフォローしています。
本学は「経験値教育」や資格取得といった実学を重視しています。その実学を生かすためにも教養教育が重要であると考えています。しかし今、全般的な傾向として専門知識の修得には熱心でも、文学や歴史などに接する機会が減っているように感じます。卒業後、どのような仕事に就いても、家庭に入っても生涯学び続けることが大切です。新しい知識を入れ続ける土台という意味でも、様々な分野の書物に触れ、幅広い教養を身につけてほしいものです。
女子大学という環境だから身につくものがある
私自身は共学の出身ですが、女子大学というところは、女性にとって大切な素養を育むにはいい環境であると思っています。例えば重たいものを運んだり、実験で固い瓶のふたを開けたりするといった力仕事でも男性に頼るわけにはいきません。知恵を出して工夫し、お互いに協力しあうことが必要になります。そこでリーダーシップ、協調性、連帯性などが養われるのです。社会で女性の活躍がいっそう求められる今だからこそ、そうした素養も磨ける教育をしていきたいですね。
大学は多くの人にとっての最後の学校。女子大学の責任は大きいと思います。私がいつも意識しているのは、女性には就職、結婚、出産など男性と異なるターニングポイントがあり、専業主婦や子育てといった金銭化されない労働をしている期間も大切なキャリアとして捉え、そうした女性の一生涯を支える大学でありたいということです。「経験値教育」を通じて、さまざまな成功体験、失敗体験を積み重ねながら成長する力を得てほしいと願っています。
【Profile】
川島 明子(かわしま・あきこ)氏
1973年九州大学農学部食糧化学工学科卒業。園田学園女子短期大学助手、園田学園女子大学講師・准教授を経て、園田学園女子大学人間健康学部教授、同学部長などを歴任。2015年より現職。農学博士(名城大学)。