四天王寺大学・四天王寺大学短期大学部 学長 岩尾 洋氏

(2016年6月27日更新)

教職員の意識改革が重要。
教員は学内ではなく、日本、
ひいては世界に目を向けるべき

聖徳太子の教えを引き継ぐ大学

 本学は2017年、大学創立50周年、短期大学部創立60周年の節目を迎えます。大学としては半世紀の歴史ですが、その起源は聖徳太子が593年に創設された敬田院(きょうでんいん)に遡ります。敬田院は聖徳太子が本学園の母体である四天王寺を建立する際に設置した四箇院(しかいん)の一つで、ほかに「施薬院(せやくいん)」「療病院(りょうびょういん)」「悲田院(ひでんいん)」があり、学問の場であった敬田院の教えを引き継いでいるのが本学です。

いい大学を作るには、その元である教員自身が変わること

 そうした独特の歴史をもつ本学ですが、今改めてどのような大学にしたいのか、真剣に思案する局面に差し掛かっています。私が学長に着任して最初の大きな仕事は、「こころえ手帳」という小冊子の制作でした。全教職員からアンケートを集めて、どのように学生と向き合うべきか話し合った結果をまとめた冊子で、トップダウンでなく、皆で考える大学としての心得を形にしたものです。本学をどんなスタンスの大学にしたいのか、一人ひとり考えることなしに、本学は生き残ってはいけません。5年後に淘汰が始まるとすれば、5年後に取り組んだのでは遅い。今考えなければなりません。

 教育学部の話ですが、単に学校の先生を作るのではなく、いい先生を作るのだと言い続けてきました。ならば、われわれ自身がもっといい先生でなければ言葉だけで終わってしまいます。これまでは学生をどう育てるかという意識ばかりだったでしょうが、その元である自分自身を変えること。その集合体がいい大学を作り、ひいては長く成長できる大学になっていくはずです。まずは教員自身が変革を遂げる。それが一番の基本であり、“今”できなければ将来は厳しいものになるでしょう。

仕事を世界に発信していく意識をもってほしい

 多くの教員は今まで大学の中に目を向けていたと思いますが、より視野を広げて日本ひいては世界を見ることが大事になってきます。教員の評価というものは多面的にしないといけません。研究、教育、管理運営、社会貢献という指標がありますが、とりわけ研究をどう評価するかは難しい問題です。私のように医学部にいた人間は自然科学ですから非常にはっきりしています。事実において正しいか違うかだけが問題です。しかし文系はそうした判断の材料がありません。そこで価値基準を大学の中だけに置くのではなく、日本、あるいは世界へと広げていかなければなりません。私の学生時代は自然科学分野でも日本語で論文を書くことが許された時代でした。しかし、たまたま私の先生が英語でないと意味がないと考えた方で、しかたなく苦手な英語で論文を書いたものですが、実際、先生が言われたとおりの世の中になりました。社会に目を向けると、日本はこれまでの成長モデルが通用しなくなっており、そこから抜けきるには世界を相手にする視点が必要になるでしょう。本学の教員の中には日本国内でいい仕事をしている方も多くいますので、それを世界に発信していってほしい。学生はその姿に触れて学ぶのです。

 聖徳太子は、当時世界最高水準の知識であった仏教文化を取り入れて、国を豊かにしようとされました。そして世界に打って出た。それをもう一度、本学の教員にしてほしいと思っています。

独自のアクティブラーニング「COCOROE(こころえ) PROJECT」

 本学の学生たちは決して学力秀才というタイプではないのですが、非常にいいところをもっていまして、それは人間性が豊かで素直なことです。一番大切な素養であります。例えば教育実習へ出向く前、大丈夫かなと心配していた子が、現場で急速に成長してきた姿を何度も見てきました。素直な分、伸び代が大きいのです。そんなよい面をもつ本学の学生が、どうすれば自分のエネルギーを注げる分野を発見できるか。経験しかありません。本を読んでも自分の適性はわかりません。その方法として、今後も拡充させたいのが、2013年から取り組んでいる独自のアクティブラーニング、「COCOROE(こころえ) PROJECT」です。全学横断で行われているメインのプロジェクトは、教員を目指す学生が近隣の中学生に無料で英語を教える「COCOROE塾プロジェクト」、地域と連携して街の活性化や商業のあり方について考える「地域連携COCOROEプロジェクト」、ICT機器を活用した授業作りに取り組む「e- COCOROEプロジェクト」の3つ。ほかにも学科別プロジェクトと合わせて、約60のプロジェクトが進行中です。

 アクティブラーニングの本質はトライ&エラー、つまり失敗ができるということです。私の研究経験からいっても10回中9回は失敗です。でも失敗するから次の手を考えるわけです。一般解のない問題とも遭遇します。人間社会では正解、不正解が時々の状況で違ってきます。それに対応できる柔軟性を身につけることも、アクティブラーニングだから学べる要素ではないでしょうか。

 もちろん、経験がすべてではありません。経験を通して必要な知識が明確になれば勉強の意欲が湧きますから、そこで座学が意味をもってきます。知識だけで何かができるようになるのではなく、知識と経験の両方を往復することで成長していくのです。

 もう一つ重要な点があります。「COCOROE PROJECT」などの機会で、自己利益や自分の興味・関心だけに、決して走ってはいけないということです。そこで生きてくるのが本学の原点である「和を以て貴しとなす」「利他の精神」といった聖徳太子の教えです。今後日本はモノマネでは生きていけない厳しい社会になるでしょう。だからといって、他人を蹴落とすような人間になってはいけないし、それでは他者からの協力が得られません。大学は学力を伸ばすところではありません。経験、場数を踏み、社会の良き一員になれるよう成長していく場です。その観点からアクティブラーニングに取り組ませていきます。

教職員は意識改革をしてほしい

 アクティブラーニングを推進していくうえで教員の支えは不可欠ですが、今後は学生をサポートできるタイプの教員が大事になってきます。学生をサポートするプロとして何ができるのか、自分たちで考えられる教員です。サポートの指針は、トップダウンではなく自分たちでつくってほしいと言っています。他方、研究をしたい教員がいてもそれは構いません。ただし、日本国内にとどまらず世界レベルの研究を求めます。これが教育、研究のそれぞれで、教員に要求していきたい力です。

 現在本学は、人文社会学部、教育学部、経営学部、短期大学部という学部構成になっています。それぞれに課題があり、より魅力を増すように改組を検討する学部もあるでしょう。しかし何より、学生を確保できるよう教職員が意識を改革することが先決です。こちらも必要な決断については、スピーディーに実行していくつもりです。

後藤 直正氏

【Profile】

岩尾 洋(いわお・ひろし)氏
1948年生まれ。1974年大阪市立大学医学部卒業、1978年大阪市立大学院医学研究科修了。医学博士。 大阪市立大学医学部教授、大阪市立大学大学院医学研究科教授、大阪市立大学特命副学長を経て、四天王寺大学教授。2016年4月より現職。 日本薬理学会理事長、日本高血圧学会理事などを歴任。




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