京都薬科大学 学長 後藤直正氏

(2016年7月4日更新)

日本の薬学をリードすることで
社会に貢献する人材を養成

わが国で二番めに古い歴史をもつ私立薬学系大学

 本学の前身である京都私立独逸学校は、1884年(明治17年)に京都府御雇ドイツ人教師であったルドルフ・レーマン先生の弟子たちによって設立されました。ドイツ語を通じて医学や薬学を修める学校で、建学の精神は「愛学躬行(あいがくきゅうこう)」。「愛知」「哲学」を「実践」「躬行」するという意味で、現在も本学に受け継がれています。その後私立京都薬学校、京都薬学専門学校を経て、戦後4年制大学に昇格し現在に至ります。すでに創立130周年を超え、私立薬学系大学では日本で二番めに古い大学となります。

高いレベルで活躍する「ファーマシスト・サイエンティスト」を育成

 薬学教育6年制がスタートして10年が経過し、この間本学独自の教育プログラムを構築してきました。教育目標は「Science(科学)」「Art(技術)」「Humanity(人間性)」の3つのバランスがとれた、「Pharmacist-Scientist(ファーマシスト・サイエンティスト)」の育成です。このうちいずれが欠けてもだめで、3つすべてを兼ね備えた人材を育てることを目指しています。この教育目標の背景には4年制薬学部時代、薬の物質面ばかりに目を向けていたことへの大きな反省があります。いま薬学領域は、人を抜きに考えることはできません。

 ファーマシスト・サイエンティスト育成のためには、薬学部で必須となるコアカリキュラムの上に、本学独自の教育を積み上げていく必要があります。その軸は「薬学の追究」と「人間教育」です。本学は4年制の時代から研究志向型の大学であり、その伝統は消したくない。そこで卒業研究に取り組む時間を標準よりも多く設定し、「薬学の追究」に励んでいます。研究発表は長期実務実習終了後の6年次の6月に実施します。その際、ポスター発表とショートプレゼンテーションに関してはすべて英語で行わせます。日本人だけでは成り立ちませんので国際学術交流協定締結校から教員と学生をお招きして、ポスター発表の質問に回っていただきます。英語は学術論文の世界にとどまらず医療現場でも必要となりつつあり、本学でも語学教育には力を注いでいます。

 薬剤師として一歩高いレベルで活躍するためには、薬学の知識だけでは不十分です。人間としての確固たる座標軸を築くには、科学教育だけでは限界があるのです。そこで「人間教育」として、文系の学生と同じようなリテラシーや思考力を身につけさせることが重要になるのですが、それを薬学部の枠組みでどう展開していくのか。本学では一般教育の教員と専門教育の教員が恊働してこの課題に向き合っています。いま非常にいいところまで進展しており、専門分野の異なる教員が恊働して倫理教育や大学院生・若手教員に対する語学教育にあたるといった状況が生まれています。

学生をお客さま扱いしない大学

 科目間にも垣根は存在します。1年次のコアカリキュラムの中に「早期体験学習」という現場見学の授業や、SGD(Small Group Discussion)、PBL(Problem Based Learning)を通じて問題発見力、問題解決力の向上を図る授業があります。以前はこれらを個別に進めていたのですが、本学ではすべてリンクするかたちに変えました。現場見学にいくにあたりどんな課題をもって臨むのか、みんなでディスカッションする。現場から戻ったら皆みんなで振り返ったり、成果を発表したりする。すべて関連する能力ですから一体的に実施したほうが効果的です。大学という組織は科目自治という考えもあって、科目ごとの情報交換がない。その風潮を変えようと、私が教務部長時代に思い切って教員相互の授業参観を可能にしました。どの授業を見に行ってもいいし回数も自由。もちろん私自身も見学に行きました。普段は教壇から学生を見ていますが、最後列に座って学生を見るだけでいくつもの発見があり、興味深い経験でした。授業改善につながる施策として今後も続けていきます。

 また、教員と職員の垣根もなくしてきました。私が常に言っているのは、教員だけで学生は育てられないということです。自分の専門をもつ教員にはどうしても偏りが生じます。本学はわれわれ教員にはない視点をもっている事務職員と共に、教職恊働で学生を育てる方針です。だから窓口の対応一つでも、学生をお客さま扱いしないでくださいとお願いしています。

国家試験対策という言葉がない

 本学の国家試験に対する考え方にも触れておきますと、国家試験が重要であることは言うまでもないのですが、目標はあくまで日本の薬学をリードする人材の養成であり、国家試験の合格が大学としての最終目標ではありません。一般に国家試験対策と呼ばれる学習を導入している大学は多いのでしょうが、本学では通常の授業をしっかり履修することが最大の対策になることから、国家試験対策という位置づけの勉強はありません。それでも国家試験合格率は全国を大きく上回り、常に上位に位置しています。
【2016年実施第101回薬剤師国家試験合格率〈新卒〉94.77%(受験者数363名) 全国平均合格率〈新卒〉86.24%】

約3割が企業に就職。多彩な進路が広がる京都薬科大学

 薬学部からの進路が意外に幅広いことも、もっと周知したい事実です。本学には病院や薬局、製薬企業だけではなく、研究機関、行政機関に進んだ卒業生のほか、薬学の知識を生かして一般企業に就職している卒業生もたくさんいます。本学の大きな特徴として3割の学生が製薬企業をはじめとする一般企業に就職しているのですが、これは薬学部としては異例の比率です。そのための教育をしているのかと問われることもありますが、特に何もしていません。伝統としか言いようがないことです。

 こうした進路の多彩さに加え、薬学という学問も多様な領域を含む興味深いものです。私の事例ですが、実は親の命令で不本意ながら本学に入学しました。ところが2年のときに受けた微生物学の授業があまりにおもしろく、自己の世界が一変した。そのとき大学院に進学することも決めました。ぜひ多くの学生に価値観を覆すような体験をしたり、薬学のおもしろさに目覚めるきっかけを掴んだりしてほしいと思います。薬学部からの進路は決して一つではないのです。

日本の薬学をリードする大学であり続ける

 本学に対して(薬学教育における)関西の雄という評価もあるようですが、私にはそのような意識はまったくありません。関西ではなく、日本のリーダーを養成する大学でなければなりません。日本の薬学をリードすることで社会に貢献できる人材を養成する。それが本学の果たしていくべき役割だと考えています。

後藤 直正氏

【Profile】

後藤 直正(ごとう・なおまさ)氏
1952年生まれ。1976年京都薬科大学を卒業後、1978年に同大学院薬学研究科修士課程を修了。京都薬科大学助手、同講師、同准教授を経て2004年に教授に就任。2011年に副学長、同年に理事、2013年に常任理事に就任。2016年4月から現職。 専門分野は微生物学、感染制御学。細菌における抗菌薬耐性機構に関する研究、細菌の多剤耐性化をもたらす異物排出システムの分子生物学的研究などで業績を残す。薬学博士




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