日本福祉大学 理事長 丸山 悟氏

(2016年9月12日更新)

大きな転換期にある日本の福祉を支えるため
福祉教育の草分けである本学が変わらねばならない

日本の福祉教育の草分け

 1957年、本学は日本で初となる4年制社会福祉学部を開設。以来、日本の福祉教育の草分けとして多くの人材を輩出してきました。2013年には、キャンパスコンセプトを「地域に根ざし 世界を目ざす “ふくしの総合大学”」に決定。現在では7学部9学科(2016年現在)を擁し、愛知県知多半島エリアに美浜・半田・東海の3キャンパス、名古屋市内に1つのキャンパスを構える「福祉系総合大学」へと成長しました。
 世界に先駆けて超高齢社会となり、人口減少社会となった我が国において、社会保障制度や生涯にわたり普く「“ふ”つうの “く”らしの “し”あわせ」を追及できる社会の仕組みと、その課題を担う専門人材の育成は、日本の重要課題であることは多言を要しません。福祉を「ふくし」とひらがなで表現しているのは、そういった変化を端的に表現するためです。また、課題解決にあたっては、従来の福祉領域のみならず、教育・経済・医療・工学・国際といった他領域からのアプローチが、ますます重要になってきています。

日本福祉大学も変わろうとしている

 団塊の世代が後期高齢者となる2025年を見据えて、日本の福祉は新たな局面を迎えつつあります。従来の高齢者や障害者、子どもといった分野ごとに縦割りで限定された支援ではなく、地域に暮らすすべての人々を支援する「全世代・全対象型地域包括支援体制(地域包括ケアシステム)」の構築に向けた動きがすすめられています。また、地域そのものも、人口減少によって消滅可能性が叫ばれ、持続可能な地域社会にどう変えていくのかも、大きな課題です。そして、介護人材不足に対応した海外からの人材受け入れや、介護事業の海外進出等国際化の課題、介護ロボット等技術進化の課題もあります。
 本学でも、そういった新時代をリードする幅広い分野のふくし人材を育成すべく、教育の質転換に向けた動きを加速しています。2015年には、2020年までを射程とする「第2期中期計画」がスタートしました。紙面に限りがあるため、直近の大きな取り組みについてお話しします。

社会福祉学科で4専修制を導入

 2017年度より社会福祉学科で4つの専修制を開始します。認知症の増加、児童虐待問題、生活困窮者支援、介護・子育てを担う家庭の支援など、経済状況の悪化と家族の変化に伴う深刻な事態が今まで以上に増えていることを受けて、相談・援助を担うソーシャルワーカーの役割の重要性とともに、様々な場面での活躍に対して期待がより高まっています。行政・子ども・医療・人間福祉という4つの専修を設置し、入学した段階から将来の進路を見据えて、一人ひとりが確実に課題解決力を身に付けていける「エンパワーメント型教育」をめざしています。また、全世代対象の包括的支援が求められる時代にあっては、多職種連携教育(IPE)が重要な鍵を握ります。藤田保健衛生大学とも協定を締結して、多職種連携教育プログラムが始まっています。地域貢献カリキュラム、フィールドワークなどを通して、学生は立場や価値観の違う人と向き合い、協働する大切さを学んでいきます。
 過去も現在も、日本の国立大学に「社会福祉学部」は存在していません。だからこそ、福祉教育の草分けである本学部が果たすべき役割は重大だと考えています。数に限定はありますが、合格者の4年間の授業料と入学金を半額にする「スカラシップ」入試制度を来年度から導入することを決めたのも、国立大学と同程度の費用で高度な福祉を学びたいという社会のニーズに応えることを目的としています。

スポーツ科学部の開設

 超高齢社会の重要な課題の一つに、「健康長寿」があげられています。病気になってからの治療にとどまらず、健康な生活を維持できるよう支援を行う「予防医療」が大いに注目されています。そんな中、健康の維持・増進に不可欠な「スポーツ」と「健康医療」に関する正しい知識を持ち、子どもから高齢者、障害者まですべての人にスポーツの楽しさを伝える指導者・教育者を育成するために、2017年4月にスポーツ科学部を開設します。もちろん、健康維持はスポーツや医療のみで実現するものではなく、人間関係や心の持ち方や教育なども重要な要素として関わってきます。そこで本学部では「スポーツを360°科学する」を掲げ、教育・文化・福祉・心理・医学・社会・経営などのあらゆる方向から、スポーツをする人・見る人・支える人全員の関心に応えられる教育環境づくりをめざします。そして、健常者やアスリートだけが行うスポーツではなく、障害のあるなし、年齢、経験に関わらず、地域に暮らすすべての人がそれぞれのペースに合わせてスポーツを楽しみ、健康維持に努められる社会づくりを推進するリーダーを育成します。それは「福祉」と「地域」を知り尽くした本学ならではの教育だと自負しています。

教職員全員で教育の変革に取り組む

 2014年に文部科学省のCOC「地(知)の拠点整備事業」に採択されました。本学は昔から「地域がキャンパス」と言ってきましたが、COCプログラムを中心に、学生たちが知多半島のさまざまな場面で、行動する学びを展開しています。例えば美浜キャンパスでは、地元美浜町が推進する「美浜ふくし」モデル創出事業に参画。空き家や古民家を活用し、世代間交流のためのコンテンツの企画・運営を学生が担当しています。東海キャンパスでは、学生が名鉄太田川駅周辺で自主的にイベントなどを行うことにより、駅前に再び活気が戻りつつあります。半田キャンパスでも、周辺の空き家を交流の場として文化のまちの継承・発展に尽くしています。取り組みに共通するのは、学生のアクションによって実際に地域が変わりつつあるということ。ただ地域課題の解決プロセスを学ぶだけでなく、その後の成果までを共有・実感する。それが、本学が最も重視するPLA(参加型学習行動法=Participatory Learning and Action)という学修スタイルです。答えのない現実社会の問題に向き合い、PDCAサイクルを回し続け、最終的に自分で答えを導き出していく人材の育成をめざしています。
 今年7月には、「卒業時における質保証の取組の強化」が文部科学省の「大学教育再生加速プログラム」(AP)に採択されました。これは正課教育での評価だけでなく、サークルや社会的活動も含めた総合的な評価を行うことで、卒業時の学生の「質」を担保しようとする試みです。
 キャリア支援に関しても、4年間を通して企業とプロジェクトを組み、議論をしながら成果を導き出す「オープンイノベーション」方式の人材育成もスタートしました。提携する豊田通商は、過去に多くの産学連携プロジェクトを成功させてきたノウハウを持つ企業だけに、本学からどのようなイノベーションが誕生するか、今から楽しみです。また、中部国際空港とも提携し、空港内に本学サテライトを設置。教育プログラムも本格的にスタートし、空港の近隣にある大学として、グローバル課題にも取り組んでいきたいと考えています。2017年には日本語教育センターを開設し、留学生をはじめ、在日外国人子女、外国人技能実習生・労働者等に向けた支援プログラムを準備・提供していきます。
 第2期中期計画では、こういったさまざまな取り組みを同時多発的に進めなくてはなりません。文部科学省の科学研究費助成事業(科研費)において、社会福祉学分野での採択数トップという研究実績を基に実践研究も充実させて、教育の質向上に向けた取り組みで教職員が力を合わせ、全員で学生の成長をサポートしていきます。


丸山 悟氏

【Profile】

丸山 悟(まるやま・さとる)氏
1954年生まれ。早稲田大学法学部卒業。1979年、学校法人法音寺学園(現 学校法人日本福祉大学)に入職。企画広報課長、学園企画部長、企画局長、総合企画室長、常務理事などを経て、2013年4月より現職。 福祉系大学経営者協議会会長、西日本大学ソフトボール連盟会長。

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