どうなる? 二つの新テスト

 文部科学省が8月末、「高大接続改革の進捗(しんちょく)状況」を公表しました。2014年12月に中央教育審議会が答申して以来、改革構想は後退に次ぐ後退を余儀なくされている印象もありますが、二つの新テストをはじめとした検討状況は、どうなっているのでしょうか…?

教えて!「どうなる? 二つの新テスト」

 
 中教審答申といえば、普通は「やれることしか書かない」ものなのに、高大接続改革答申の場合は、課題の方向性を示す「提案型」だったのだそうです(前文科省担当者)。そこで15年3月から「高大接続システム改革会議」を設けて「提案」の具体化を探ったわけですが、今年3月の最終報告でも細部を詰め切れず、4月末から省内に「高大接続改革チーム」を設けて、検討の“再延長戦”に臨んでいるわけです。

 「進捗状況」によると、まず、高校版の全国学力テスト(ただし学校単位が基本の希望参加方式)である「高等学校基礎学力テスト」(仮称、名称は「テスト」でなく「診断」「検定」「検査」などになる見通し)は、最終報告で提言されていたCBT(コンピューター利用型テスト)やIRT(項目反応理論)の活用を、現時点では安定的・継続的に活用できる段階ではないとして、見送りました。もしCBT―IRT方式が実現できれば、各高校が都合のいい時期に何回でも受検できるという、夢のような構想なのですが、そもそも当初から専門家の間では技術的な困難さが指摘されていましたし、「アイテムバンク」に大量の良問を蓄積するためには、自作問題だけでは足りず、都道府県や校長会、各学校にもテスト問題の提供を求めるといった、かなりハードルの高い構想だったことも確かです。ただ、PBT(紙による実施)となると、一斉実施の時期をどう設定するか、関係者の間で議論が再燃することは必至です。

 さて、多くの高校教員にとって最大の関心事であろう「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)ですが、報道などでご存じの通り、記述式問題の採点方法と実施時期をめぐって、受験生が志願する大学が採点するなど3案を示したこと、英語4技能の評価を将来的には民間の資格・検定試験の活用に一本化する方針を打ち出したことがポイントです。これを、どう受け取ればいいのでしょうか。

 記述式問題の導入は、答申にあった「合教科・科目型」「総合型」問題の代わりに、思考力・判断力・表現力を評価する手法として、システム会議で急浮上したものです。しかし試算してみると、実施主体である新センター(現在の大学入試センターを改組)が一括して採点するには相当な期間が必要になることも明らかになり、最終報告では、学習指導要領の改訂を挟んで「短文記述式」「より文字数の多い問題」という2段階で導入するという、苦肉の提案をしました。しかし、たとえ短文でも50万人規模の記述式解答が技術的に採点できるのか、専門家の間では危ぶまれていました。

 各大学で採点するにしても、教員に相当な負担が掛かるなど、課題は山積しています。ただ、理想を追って専門家からみても無理筋の技術開発に突き進むより、現実的な道を探り出した、とみることもできます。

 重要なのは、19年度から基礎学力テストを、20年度から学力評価テストを導入するなどのスケジュールに、一切変更はない、ということです。学力の3要素を測定しようという意思にも、揺らぎはありません。学力評価テストで「マークシート式問題の改善」とあるのも、甘く見てはいけないかもしれません。次期指導要領の全面実施を待たずに、アクティブ・ラーニング(AL)の視点で「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業改善が迫られることは必至です。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/